[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップするのは2月22日(土)公開の『東京難民』。すごいタイトルですが、今だからこそ生まれたような映画といっても過言ではありません。就職率が下がり、リストラの嵐が吹き、ブラック会社が増えて、なかなか希望の光を見いだせない……という時代。格差社会は広がるばかりです。「別に今大学生だし、楽しいし……」なんて言っているアナタ。そんな浮かれていいのかしら?
だって『東京難民』の主人公は、そんな浮かれた大学生が、ある日突然奈落の底に落とされていく物語なのですよ。
【物語】
時枝修(中村蒼)は大学生活を謳歌していたけれど、突然除籍扱いになってしまいます。原因は父親の失踪。一家離散し、学費はおろか生活費もままならなくなった彼は、家賃未納でマンションを追い出され、ネットカフェで寝泊まりするようになります。日雇いの仕事をしながら、ただ生きている日々。彼はホストクラブで騙されて、そこで働くことになるけれど、トラブルを起こしてついにホームレスになってしまい……。
【主人公に同情できない?】
家族の失踪により、生活が一変してしまう修だけれど、自業自得な感じも。何かに一生懸命取り組んでいたり、頑張っていたら「ナゼ?」と主人公に同情できると思うのですが、修は大学生とはいえ、親に甘えっぱなしで、大学でもろくに勉強せず、とりあえず授業に出ていれば単位が取れるだろと思っている、あまちゃんです。
だから親に捨てられたときも、探そうともせず、ただ落ちていくだけなのです。見ていて、ちょっとイラっとしましたよ。でもこういう人けっこういるんだろうなとも……そこが今の時代を反映しているような気がしました。
【監督は映画化は無理だと思っていた】
佐々部清監督は、同名原作を読んだとき「主人公にまったく共感できず、映画化は無理だと思った」と言っています。ただ読み進めていくうちに、自分が上京してお金がなかったときのことを思い出し「今までやったことのない映画をやろう」と、取り組むことにしたそうです。
そうそう、若いときってお金ないじゃないですか。その感覚はわかるんですよね。でも主人公が向かっていく道を間違えた、人生のターニングポイントで行ってはいけない道に進んでしまったわけで、この映画は、その行く末を描いているわけです。
正直ワクワクする映画ではなく「どうなっちゃうんだろう、修……」と、迷路に迷い込んでウロウロしている主人公の行く末が不安になる映画ではあるのです。人に騙され、傷つけられ……でもそんな彼を助けるのも人なんですよね。そして、もう親のすねかじりじゃない、いつの間にか自立への道を歩んでいくようになるのです。
【中村蒼の清潔感が魅力】
主人公をとことん落としていく怖さや厳しさを描きながらも、エンターテインメントだなと感じさせるのは主人公の中村蒼です。イケメンの彼はどんなに汚れ役でも清潔感があり、不快感を抱かせないのですよ。絶望的な物語でもあるのに、中村蒼の魅力が、この映画を崖っぷちで支えている感じがしました。
『東京難民』は、何もかもやる気がでないという若い人に見てほしい。「こうはなりたくない!」と思うはず。反面教師になる映画と言えるでしょう。
執筆=斎藤香 (c) Pouch
『東京難民』
2014年2月22日公開
監督: 佐々部清
出演: 中村蒼、大塚千弘、青柳翔、山本美月、中尾明慶、金井勇太、落合モトキ、大谷ノブ彦、吹越満 、福士誠治、津田寛治ほか
c2014『東京難民』製作委員会