[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップするのはフランス映画『グレート デイズ! ―夢に挑んだ父と子―』です。車椅子の青年と父親がアイアンマンレースを通して絆を深めていく物語。父と息子はまったく心が通い合えない状態から、息子が歩み寄る形で徐々に距離を近づけていくのです。目標に向かってゆくこと、諦めないことを教えてくれる感動作です。
【物語】
フランスのアヌシー地方で暮らす車椅子の青年ジュリアン(ファビアン・エロー)は、母の愛情に理解を示すも、過保護すぎて少し苛立っていました。そんなとき遠方で働いていた父(ジャック・ガンブラン)が失業して帰ってきます。幼い頃から自分に背を向けていた父に対し、ジュリアンは「一緒にアイアンマンレースに出たい」と頼みます。
障害のある息子とアイアンマンレースに参戦したアメリカ人親子の記事を見て、ジュリアンも父と挑戦したい、父との距離を縮めたいと思ったのです。しかし、父はまったく取り合わず……。
【父と息子の心のガチンコ勝負】
車椅子のジュリアンは17歳。単身赴任の父との交流がまったくないまま育ちましたが、世話好きな母に溺愛され、弟思いの姉もいます。おそらく愛情豊かに育てられたからこそ、彼は明るく前向きなのでしょう。その彼にとって唯一の気がかりが父との不仲。障害を持った息子とどう接していいかわからない不器用な父さんなんですよ。
アイアンマンレースに誘われたときも、考えるまでもなく無理だとシャットアウトするし。なんだか昭和の頑固親父みたい。フランスにもこういう父親いるんだなと、フランス人に親近感さえわくほどです。それでも負けずにアピールするジュリアン。けっこう頑固を貫くところは似た者の親子と言えるかもしれません。
【主演俳優は語る“ジュリアンは僕に似ている”】
ニルス・タヴェルニエ監督はドキュメンタリーの仕事で訪れた神経内科で、障害を抱えながら、ものすごいエネルギーに満ちた子供たちに出逢い、車椅子の少年の物語を作ろうと決めたそうです。
そして監督は、主人公のジュリアンを演じるファビアン・エローを170か所もの施設を訪問の末にオーディションで発見。『グレート デイズ! ―夢に挑んだ父と子―』は本格的に走り始めたのです。
ファビアンは脚本を読んで感動し、自分に似ていると感じたそうです。
「この物語は僕の人生を反映しています。僕はジュリアンに親近感を持ったし、だからこそ、どうしてもオーディションに合格したかったのです」
母親が妊娠6か月のときに超未熟児として生まれたファビアンは、脳神経障害があります。しかし、普通高校の工学科に通う彼は、自動車免許を取得したり、会社を立ち上げたり、人生をアクティブに満喫しています。脳機能に障害がある人にとって、演技(自分が感じない心情を表現すること)はとても困難なことで、ゆえにファビアンも4カ月トレーニングを受けましたが、大仕事を見事やり遂げました!
「自信を持てたし、他人に心を開けるようになりました。この映画を通して、障害が人間にとってそれほど重要なことじゃないという事を見せられればうれしい。障害者もみんなと同じ、ひとりの人間なのですから」
障害者とか健常者とか関係ないんですよね。地に足のついた考え方、生き方をしているファビアン。確かにアイアンマンレースに何が何でも出たいと父に訴えるジュリアンに似ています。「みんなが出ているんだ。俺だってできる」と考えたのではないかと思うからです。
【リアルにアイアンマンレースで映画撮影!】
この映画のハイライトは、やはり父と息子でチャレンジするアイアンマンレースのシーンです。アイアンマンレースとはトライアスロンの中でも最も過酷と言われるレースで、水泳、バイク、ランニングがオリンピックディスタンスよりも距離が長い。過酷ゆえに完走した人には鉄人の称号が与えられるのです。
ジュリアンと父が挑戦したのは「アイアンマン フランス ニース」のレース。南仏のニースのコート・ダ・ジュールを舞台に6月に開催されます。レースは過酷だけど風景は美しいという、そのミスマッチ感もまたこの映画の味かも。演じるファビアンと父親役のジャック・ガンブランは1キロ近く泳いだり、レースに参加するアスリートと交流を持ったりしたそうです。出場者たちの側には常に家族の姿があり、この競技は出場する人だけでなく、家族との共同作業だと再確認。この映画がアイアンマンレースを通して家族を描いているのは間違っていなかったというわけですね。
父と息子の葛藤を乗り越えた愛情と、チャレンジ精神を描いた『グレート デイズ! ―夢に挑んだ父と子―』は、こういう人に見てほしいというのは……ない。できればみんなに見てほしい!年代問わず、性別問わず、誰が見てもスッキリ爽やかな気持ちになれるはずですから。
執筆=斎藤 香(C)Pouch
『グレート デイズ! ―夢に挑んだ父と子―』
2014年8月29日公開
監督:ニルス・タヴェルニエ 出演:ジャック・ガンブラン、アレクサンドラ・ラミー、ファビアン・エロー、ソフィー・ドゥ・フュアスト
(C)2014 NORD-OUEST FILMS PATHE RHONE-ALPES CINEMA