連休のさなか、人々がちょうど退屈を持て余す頃、オレは静かに店を開ける。今夜(※9月14日)は週末イベント「深夜食堂ナイト」だからだ。メニューは、たったこれだけ。
・豚汁定食
・ビール(生)
・酒
・焼酎
……えっ? 客が来るかって? それが、結構来るんだよ。
「おいおい! 原作通りすぎて、何を頼んだらいいかわからないヨ!」と思ったお客さん、いるかい? 安心してくれヨ。「深夜食堂」第12巻に出てきた食べ物を揃えた、特別メニューも、用意しておいたからサ。
まず、店に来たのはシンちゃん。イケメンで優しいから、結構モテるんだな、これが。オレの仕込んだチャーシュー、「味が染みててうまいッス!」って笑顔だったよ。
お次の注文は、常連のアカネちゃんからか……定番メニューの豚汁定食だ。任せナ。
肉と野菜がドッサリ入った豚汁だヨ。たっぷり食べて栄養つけてくれよ。舌、ヤケドしないようにナ。
そろそろ、カウンターに人が増えてくる時間だ。仲良し姉妹みたいな二人組、メグちゃんとアンナちゃんがやってきた。よくキャッキャとはしゃいで帰ってくから、こっちの気分もなんだか明るくなっちまうヨ。
あいよ、アボカドお待ち。ワサビ醤油でどうぞ。
「キャー!」って喜んで、メグちゃんはスマホでアボカドを撮り出したヨ。今の子ってェのは、すぐに写真を撮りたがるんだなぁ。オレにはよくわからないが、こんなに喜んでくれるなんて、食堂やってて良かったなぁ、なんて思うときもあるゼ。
オッ、次の注文かい? 隅っこに座ってた、自称ライターの新顔の姉ちゃんじゃないか。誰に聞いてウチに来たかは知らないが、「来るもの拒まず、去るもの追わず」だ。飲んで行きナ。
ポテサラハム巻きに、とろろごはんサ。「ごはんが止まらない!」って、姉ちゃん、喜んでたよ。まるで原作の話と一緒だよなぁ。
お次は、焼き肉定食に春巻きだよ。パリッパリに仕上げてみたんだ。
サクラちゃんは、いつも美味しそうな顔で食べてくれる。この表情、嬉しくなっちゃうんだよなぁ。
あいよ、限定メニューのにゅうめんお待ち。みんなが好きな鶏団子も、ちゃぁんと大きいヤツ、入れておいたよ。ふうふう食べて、あったまってくれよ。
トマトと卵の炒めもの、アンナちゃんはパクパク食べるねぇ。炒めたトマトが、また酒に合うって評判サ。
オレが厨房に戻っている間、カウンターで何やら雑談が始まってた。
「シンちゃん、一昨日、お誕生日だったんでしょー?」
「おめでとー!!」
「じゃあ、私のお料理なんかあげるっ!春巻き半分あげるね!」
シンちゃんはちょっと照れながら、プレゼントの春巻きやブロッコリーで、うまそうに飲んでたよ。優男だねぇ。
「みんなで料理をシェアするの、なんか本物の深夜食堂みたいじゃなーい!?」
「おいしいもの、色々味見したいもんねえ!」
作った甲斐もあるってモンだよ。
たくさん料理を作ったオレは、ほーんのちょっぴり、ヘトヘトさ。だけど、みんなの笑顔を見るのが一番好きだから、また深夜食堂ナイト、やろうと思ってるヨ。オレたちは一人じゃ何もできないけどヨ、メシや酒や、楽しい時間を分け合うことなら簡単にできるもんサ。……ヘヘッ、ちょっとクサいこと言っちまったかなぁ。
(※文中に登場する人物は、すべて仮名です。今回は、中野区のバー「フローチャート」さんの週末イベント「深夜食堂ナイト」にお邪魔しました。ほかにも、名古屋メシやボドゲ会など、様々なイベントを行っている、とても楽しいバーでした)
参照元:フローチャート, フロチャTwitter
執筆・撮影=川澄萌野