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ドキュメンタリー『ハッピー・リトル・アイランド ―長寿で豊かなギリシャの島で―』が描く生活を楽しむコツ【最新シネマ批評】

2014年10月14日

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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのはドキュメンタリー映画『ハッピー・リトル・アイランド ―長寿で豊かなギリシャの島で―』(10月11日公開)です。ギリシャの若者たちは都心部の失業率の高さと荒れた様子に耐えかねて、海外や離島へ移住する者が少なくないそうです。この映画は、ギリシャの若者たちがエーゲ海の離島イカリア島へ移住するプロセスを見せながら、この島の魅力を描きます。そこには時代を超えて生きる力があるのです!

【物語】

エーゲ海に浮かぶイカリア島。ここは「死ぬことを忘れた人が住む島」と言われています。アテネで生活していたカップル、トドリスとアナは都会からミステリアスなイカリア島へと移住を決め、まずトドリスが島へと向かいます。緑と海に囲まれた島は美しいけれど、便利な生活に慣れていたトドリスは、こうなることがわかっていたつもりでも戸惑いを隠せません。この島は老人が多く、生活は自給自足。トドリスはやがてイカリア島で生活を楽しむコツを老人たちから学んでいきますが……。

【近所の人も家族同然】

「死ぬことを忘れた人が住む島」とはつまりご長寿の島というわけですね。イカリア島でもPCは使えますが、生活の基本は実にシンプル。自分で作った物で生活をし、足りない物は島の人同士で補い合っています。トドリスとアナは助け合うこともしない殺伐とした都会に嫌気がさしてイカリア島に移りますが、必ずしもすぐに幸せを実感するわけではありません。文明の利器に慣れた生活をしてきた彼らにとって、まずはイカリア島のシンプルライフを受け入れることから始めなければいけないからです。

大自然は美しいです。空は美しい水色、海は透きとおり、土と緑も目の前に広がり、マイナスイオンたっぷりです。でも自分から動かなければ何も進みません。畑仕事をしたり、ご近所の仕事を手伝ったり、コミュニケーションは必須。そう、ここでは島の人みんなが家族。生きるためにご近所付き合いは重要なのです。

ある男性は、小売店に買い物に行ったとき、持ち合わせがなくて商品をもらってきたそうです。なぜもらえたのか。その男性はお店の修理などを手伝い、何かと世話をしてきたからです。持ちつ持たれつの生活なんですよ。昔の日本もこうだったのかな~と思ったりしました。みんなで協力しあって支え合って生活を成り立たせているのです。

【イカリア島が若者たちに可能性を与える!】

ニコス・ダヤンダス監督は、イカリア島の人々にまつわる噂をこのように語っています。

「イカリア島民のステレオタイプの印象は、怠け者でゆったり生きていて、信頼できず、パーティ好きな共産主義という感じだね。なんでそんな噂が立つのだろうと思ったけど、ここに来ればその理由がわかる」

この映画を見ればわかるのですが、イカリア島に怠け者はひとりもいません。みんな毎日一生懸命働いています。ただ、ペースがとてもゆっくりなのです。そしてみんな「体は疲れるけど、精神は疲れない」と言っています。それはなぜか……。人と比べることはなく、競争がないからストレスがたまらないのです。この島を発展させるぞという気持ちはなく、いまある物で十分だと思っている。まさに今を生きることこそが幸福な人たちなのですよ。無理をしない。だからご長寿なのかもしれません。

そして監督は、都会から若者が移住してくるのは、島にとっても若者たちにとっても良いことだと語っています。

「ギリシャは失業率が高く、みんな仕事にあぶれている。みんながイカリア島に来るのはこの島の環境が悪くないからです。正直、田舎暮らしが合わずに失敗する人もいますよ。でもうまくいけば、この島にやってくる若者たちはこの島で作られる食べ物やワインなどの優秀なつくり手になるのです。彼らはギリシャの輝ける未来の担い手ですよ」

なるほど! もしかしたら、自分の知らなかった自分が見つけられるかもしれないというわけですね。「自分はこんなこともできる!」と、自信を与えてくれることもあるかもしれないのです。

【ゆっくりとカラダにしみこんでいくシンプルライフ】

この映画で取り上げられるのはトドリスとアナだけではなく、ほかの若者たちもイカリア島での生活にチャレンジしています。そりゃみんな最初はとまどいますよ。でもこの島と人々は器が大きい。自分たちがゆっくりノンビリ一生懸命だから、ゆっくり慣れていけばいいとドンとかまえて見守ってくれるような気がします。もしもこの島を離れることになっても「自分には帰る場所がある……」と、安心感を与えてくれる、第二の故郷になりそうです。

おじいちゃんの入れるギリシャコーヒーやアナが作るジャムはおいしそうだし、まったりした空気は時間が止まっているよう。都会で生き急ぐ人は見てほしい。「アワアワと慌てることはないのかな」と自分の生活スタイルを見直すかも。そして疲れたとき「イカリア島へ行ってみようかな」と、思ったりするかもしれません。

執筆=斎藤 香 (c) Pouch

『ハッピー・リトル・アイランド ―長寿で豊かなギリシャの島で―』
2014年10月11日より渋谷アップリンクにて公開
監督:ニコス・ダヤンダス

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