[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップするのは3Dドキュメンタリー『大津波 3.11 未来への記憶』(2015年3月21日公開)です。震災直後から、3Dで記録してきた東北各地の3年間を綴っています。津波、復興、家族、思い出など、東北は3年間でどう変わったのでしょうか。
【物語】
東日本大震災から3年あまりをカメラは映し出しています。登場人物は東北に暮らす人々。彼らは地震と津波で命を落とすことなく、生活を建て直しながら生きていますが、大切な家族を失った悲しみを背負っています。
家族で孫のお宮参りを祝った3時間後に津波の被害にあった家族、津波によって夫を失った妻、観光ホテルを失った経営者、震災以来、東北の人々の写真を撮り続けるカメラマン、釜石の巡視船の船員たち……。みんなが震災直後の出来事、それからどう生きて来たのか、自分たちはこれからどこへ向かっていくのか……を語り、その姿、思い出、現在を見せてくれます。
【3Dで見る東北の姿】
正直、最初は『大津波 3.11 未来への記憶』を見るのに勇気が入りました。震災の日のニュース映像だけでも衝撃だったのに、震災から4年たったとはいえ、あの映像を3Dで見ることになるのかと。しかし、やはり見てよかった。震災の爪痕とも言える瓦礫の山、骨組みだけの建物、かつてはにぎやかだった商店街の跡地。それは悲しく辛い景色だったけれども、忘れてはいけない、何かできることはないのか……と、こんなにいろいろなことが頭を駆け巡る映画はなかなか見られないからです。
「なんであのとき夫の手を離してしまったのか」と悔やむ酒屋の奥さん。今でも辛いだろうな……と思いつつも、それでもしっかり生きて、仮店舗で子供たちの酒屋を再開しています。震災の地で生きる人は、悲しみを背負いつつ、しっかり大地を踏みしめて生きているのです。震災の過去は悲しみや苦しみしかないはずなのに、語る口調が穏やかというのも凄い、強い。
【津波を経験して得た教訓】
昭和大津波の直前に生まれた女性は、その後にできた大防潮堤を故郷の誇りと思って生きていたそうです。ところがその誇りが東日本大震災の大津波の前に力尽きてしまった……。彼女がご主人と経営していた観光ホテルの下層階は津波に流され骨組みだけになってしまいました。大津波を経験した彼女はこう語ります。
「津波と闘ってはいけない。ただ逃げるんだ」
大防潮堤があっても、暴れまくる大自然には逆らえなかったけれど、逃げることで生き延びた。その経験が語る言葉は重く真実味があります。
また釜石の巡視船の航海士や船長は、目の前で防波堤が破壊されるのを見て「怖かった」と正直に語ります。海のスペシャリストさえ、恐ろしさに震えた大津波。改めて、モンスターのように東北の地に襲いかかったのだと映像と証言が物語り、その映像や語りは「忘れるな!」と、心に訴えかけるようです。
【スクリーンで見るべきドキュメンタリー】
『大津波 3.11 未来への記憶』はやはりスクリーンで見るべきです。3Dで見るからこそ、東北に行かずとも、その場に立っているような気持ちになれます。東北で起こったことを知る、忘れないように心に刻む、それが大事なことかなと。
東日本大震災や福島原発のドキュメンタリーが多く作られるのは、やはりみんなに忘れてほしくないと思っている人が多いからです。その中のひとつでもある『大津波 3.11 未来への記憶』。この映画は、東北や震災や津波について考える機会を与えてくれる作品なのです。
執筆=斉藤 香 (c)Pouch
『大津波 3.11 未来への記憶』
2015年3月21日より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
監督:河邑厚徳
語り:役所広司
朗読:山根基世
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