[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップするのはカナダ・フランス合作映画『カフェ・ド・フロール』です。あのジョニー・デップの元妻ヴァネッサ・パラディ主演。時代を超えて人物が交錯する不思議な愛の物語。といってもSF的なものではなく、スピリチュアルな世界。謎めいていながら最後にハっとさせられる、実に美しくて深い作品です。
【物語】
2011年モントリオール。アントワーヌ(ケヴィン・パラン)はキャロル(エレーヌ・フロラン)と別れ、ブロンドの美しいローズ(エヴリーヌ・ブロシュ)と愛し合っています。一方キャロルは離婚の痛手を乗り越えることができません。キャロルにとってアントワーヌは運命の人だったのに。そんな彼女はときどき変な夢を見ます。小さな男の子が叫んでいる夢……彼はいったい誰なのか。
1969年パリ。ジャクリーヌ(ヴァネッサ・パラディ)は、ダウン症の息子を愛情持って育てています。息子は同じくダウン症の少女と出逢い、仲良くなります。双方の親は二人の仲を見守りますが、実はジャクリーヌは内心穏やかではありません。
このふたつの時代を超えた物語が、次第に結びついてくるのです……。
【時を超えた愛の輪廻】
まったく時代が違うし、まったく関係のない物語に見えたものが、いつのまにか繋がっていくプロセスが素晴らしいです。ヒントはキャロルにだけ見える小さな男の子なのですが、彼は過去との接点になっており、もうひとつ接点になっているのが「カフェ・ド・フロール」というタイトルロールの曲なのです。物語を追ううちに見えてくる男の子の正体「もしかしてこの子は……」とわかったときは本当に胸が高鳴り、輪廻とはこういうことを言うのかと。
『ダラス・バイヤーズクラブ』のジャン=マルク・ヴァレ監督作ですが、演出が本当に巧み。「どうなっているの?」と、惑わされながらも結末はカタルシスさえ感じさせます。紐がからまったような人間関係が解きほぐされていき、そしてラスト「よかったんだ、これで」とちょっと涙ぐんだりして。生まれてから死ぬまでが人生じゃなく、魂は時代を超えて続いていく。そして思い残すことがあっても、解決できなかったことがあっても、時代を超えて和解したり、心が解放されたりするものなのだと。輪廻とはそういうものだと信じさせてくれる映画なのです。
【大胆なキャスティング!】
またこの映画はキャスティングも大成功です。1960年代の母親を演じるのはヴァネッサ・パラディ。ジョニー・デップと離婚してから映画出演に積極的。この映画でも厳しく頑固なママを好演しています。子供とのやりとりはほぼアドリブとか! そしてアントワーヌを演じるのはミュージシャンのケヴィン・パラン。二人の女に愛されながらも、子供たちの変化にとまどう、大人になり切れていないピュアな男を好演。『はじまりのうた』のアダム・レヴィーンといい、ミュージシャンは俳優業でもいい仕事をしますね。やっぱり感性?勘の良さとかあるのかな。
2011年と1969年、それぞれの人間関係をよく見ていくと、次第に気付くことがあるはずです。こういうことあるかもしれない、いや、あったらいいと希望を感じさせてくれるスピリチュアルな大人の愛の物語です。
執筆=斎藤香(c)Pouch
『カフェ・ド・フロール』
2015年3月28日よりEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
監督:ジャン=マルク・ヴァレ
出演:ヴァネッサ・パラディ、ケヴィン・パラン、エレーヌ・フロラン、エヴリーヌ・ブロシュほか
(C)2011 Productions Cafe de Flore inc. / Monkey Pack Films