Pouch[ポーチ]

「まさか自分がこういう場で声を上げることがあるとは思わなかった」 ドキュメンタリー映画『首相官邸の前で』が映し出す福島原発政策抗議デモとは【最新シネマ批評】

2015年9月8日

main_large

[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは『首相官邸の前で』(2015年9月19日公開)です。福島原発政策への抗議デモを映し出したドキュメンタリー。慶応義塾大学総合政策学部教授である小熊英二氏が企画・製作・監督した作品です。

【2012年夏の首相官邸前デモ】

2012年夏、多くの人が首相官邸前に集まり、福島原発政策への抗議をしました。出身地も仕事も違う、これまで仲間だったわけでもない。そんな人々がそれぞれの想いを胸に首相官邸前に集まり始めて、それが大きなデモへと繋がっていったのです。

安保法案や集団的自衛権の件で多くの人が集まった国会前デモは記憶に新しく、今でも活動は続いています。同じように、2012年夏にも福島原発の政策に反対する人々が立ち上がり、首相官邸前で声をあげていました。

原発事故の責任はどこにあるのか。今でも元の生活に戻れない人は多く、活動が続いています。個人単位で怒っていても声は伝わらない、まずは声をあげようと集まった人々の姿が映画に記録されています。

【様々な人物のインタビュー】

この映画は、小熊監督がデモで撮影をしていた方々に承諾を得た映像と、インターネットで探して使用承諾を得たデモの映像に加えて、キーとなる人物にインタビューをした映像で構成されています。

インタビューされている人物は、小売店の販売員、主婦、アーティスト、経営者など様々な年代で様々な仕事をなさっている人たち。「まさか自分がこういう場で声を上げることがあるとは思わなかった」という方もいました。でも動き出したのです。

【なぜ映画をつくることになったのか】

小熊監督は、映画に関わりのある方ではなく、歴史社会学者です。この映画も、映画監督デビューをしようとつくった作品ではなく、社会学者として、2012年の夏にあったデモの記録を残そうという考えのもとに作り上げたもの。資料にある監督の言葉でもこう語られていました。

「過去の資料の断片を集めて、ひとつの世界を織り上げることは、これまでの著作でやってきた。扱うことになる対象が、文字であるか映像であるかは、この際、関係なかった」

監督にとっては、これまで文字で表現してきたことを今回は映像で表現しただけであり、社会学者としてのスタンスのまま作り上げた映画ということになります。

派手な音楽を入れて観客の心を煽ったり、強烈なメッセージを発信したりということは、この映画にはありません。大胆なカット割りでスリルを煽ることもありません。淡々とデモの様子が映し出されています。でもそれが、インタビューで語る人々の表情や言葉、首相官邸前に集まった人々の熱気を、印象深いものにしていると思いました。

【語り合うということ】

『首相官邸の前で』は、9月2日から先行ロードショーされています。上映後、小熊監督が参加したり、ゲストを迎えたりする “トークシェア” というスタイルで公開している場所もあります。良いも悪いも感想は人それぞれだろうから話し合ってほしい、という気持ちが監督にはあるのです。

「インターネットの時代でも、じかに姿を見せ合い、言葉を交わすことが、人は本来好きなはずですから」

みんなで話し合い、経験を分かち合ったりすることは、その人の人生を豊かにするはず。ぜひ『首相官邸の前で』を見て、友達や恋人や隣の席で見ていた人と語り合ってください。

執筆=斎藤香(C)Pouch

『首相官邸の前で』
2015年9月2日よりアップリンクで先行上映 / 2015年9月19日より全国順次公開
企画・製作・監督:小熊英二
参照:『首相官邸の前で』公式サイト
©2015 Eiji OGUMA

▼映画『首相官邸の前で』予告編

モバイルバージョンを終了