[公開直前☆最新シネマ批評・インタビュー編]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品の監督を直撃インタビューします。
今回インタビューをしてきたのは、フランス映画『エール!』(2015年10月31日公開)のエリック・ラルティゴ監督です。
『エール!』は今年のフランス映画祭でも話題を振りまいた作品で、さわやかな青春と家族の濃い愛情がたっぷりつまった映画。ラルティゴ監督に『エール!』の感動の源について語っていただきました。
【物語】
フランスの田舎で酪農を営むベリエ一家の長女ポーラ(ルアンヌ・エメラ)。彼女以外の家族は耳が不自由なため、普段の会話は手話で行われています。唯一、家族の中で耳が聞こえるポーラは、家族の通訳としてベリエ一家と外の世界を繋げる役目を担っています。
そのポーラに歌の才能があることを音楽教師が見抜き、パリの音楽学校を勧めます。しかしポーラは、パリへ行きたいけれど、家族を置いて行くことに悩みます。
彼女の家族には歌が聞こえないため、娘に歌の才能があるという話を信じることができません。そして、ポーラの決断は?
【重くなりがちなテーマを軽やかに】
耳が不自由な両親とその子供の物語というと、少々ヘビィな映画を想像するかもしれません。しかし『エール!』は、笑いも多く含んだ爽やかな感動作であり、いつの間にか涙がツツーと頬を伝う映画でもあるのです。
「障害者の家族を持った少女の話は、フランスでも重い映画になりがちなのですよ。でも私はそれを逆手にとって明るく笑いもある映画にしました。聴覚障害の両親から生まれた健常者の子供のことを “コダス” というのですが、ポーラはこのコダスなのです。体と心の成長が伴わないポーラの思春期らしい不安定な心も描きました」
主人公の少女ポーラを演じるルアンヌ・エメラは、テレビにちょっと出たことがある程度の、ほぼ素人に近い女の子でした。
そんな彼女がオーディションでこの役を勝ち取り、見事演じ切ってセザール賞などフランスの映画新人賞を受賞! この映画から、才能あふれる凄いフランス女優が誕生したのです。
「最初のオーディションはひどいものでしたけどね(笑)。でも私は彼女に会った瞬間に “この子だ” というひらめきがありました。何度かオーディションを重ねるうち、ある日、即興劇をやってもらったら、ルアンヌが素晴らしい演技をしたのです。そのとき “この子でひとつの作品ができる!” と確信しました」
と、ラルティゴ監督。才能のきらめきは、ある日突然飛び出してくるものなのですね!
【この映画の明るさの秘密はポーラのママにあり!】
『エール!』の明るさの発信地はポーラのママ。ママがとにかくにぎやかなのですよ。言葉はないのにうるさいという……。しょっちゅう手と表情が動いていて、まああ、元気!
そんなポーラの家族について、ラルティゴ監督はこう語っています。
「父親は寡黙でどっしり落ち着いていますが、ポーラの母親は外交的な自由人、ちょっと過剰に見えるかもしれないけど、手話と表情で会話する聴覚障害の方には多いタイプなのですよ。健常者におしゃべりな人と無口な人がいるのと同じです。」
そして監督はポーラを熱演したルアンヌの努力を称賛!
「彼女が手話をマスターしたのは快挙です。家族キャストで彼女だけが手話をしながらセリフもしゃべらないといけないわけですから。手話とフランス語では構文が違うから、セリフと手話を同時に行うのは、二重に難しいのですよ。本当に素晴らしいチャレンジだったと思います」
なるほど! 彼女がフランスの各映画祭で新人賞を受賞したのは、そんな難しいテクニックを駆使しつつ、素晴らしい演技を見せたからでしょう。
【フランスの若者はパリを目指す!】
作品中、ルアンヌは歌手としての成功を夢見てパリへ向かおうとしますが、これは日本の若い男女が進学や就職をきっかけに上京するのに似ています。
やはりフランスでも地方の男女はパリを目指すのでしょうか? と監督に聞いてみると、
「どこの国でも成功するために都会に出ようとする気持ちは一緒です。多くの人に認めてもらえるかもしれないでしょう。ただルアンヌの場合、耳が不自由な家族を置いていくことに大きな後ろめたさを感じてしまうのです。でもね、そんな思いを乗り越えてパリへ行くことは、人生の醍醐味でもあると思うのですよ」
ルアンヌは人生最初のターニングポイント迎え、何を思い、どう乗り越えていくのでしょうか。見た人はみんな自分の人生における大きな選択を思い出したり、今、そのときを迎えている人は勇気づけられたりするはず。モヤモヤしたときに見るとスッキリほっこり感動できる映画です。
執筆=斎藤香(c)Pouch
『エール!』
2015年10月31日より、新宿バルト9ほか全国ロードショー
監督:エリック・ラルティゴ
出演:ルアンヌ・エメラ、カリン・ヴィアール、フランソワ・ダミアン、エリック・エルモスニーノほか
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