【公開直前☆最新シネマ批評】
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップするのは、ナタリー・ポートマン主演映画『ジャッキー / ファーストレディ 最後の使命』(2017年3月31日公開)です。ナタリー・ポートマンはこの映画でアカデミー賞主演女優賞候補になりました。惜しくも受賞は逃しましたが(受賞したのはエマ・ストーン『ラ・ラ・ランド』)、彼女こそ受賞にふさわしいという声も。
私も主演女優賞はナタリー押しでしたが、エマも魅力が炸裂していたので「2人が主演女優賞でもよくない?」とも思っていました。とにかくこの映画のナタリーは神! 彼女の力で傑作に押し上げたといっても過言ではない名演技なのです。
【物語】
1963年11月22日、米・テキサス州ダラスでのパレード中に、J・F・ケネディ大統領が暗殺されます。目の前で夫を殺されたジャッキー(ナタリー・ポートマン)は、悲しみと怒りと動揺で混乱。
しかし、ケネディ大統領がいなくなった今後のことを周囲が話しているのを聞くにつけ「このままでは夫は忘れられてしまう」と、夫の血が飛び散ったスーツを脱ぐことなく、大勢の前に姿を現します。
その後、数日間で夫の葬儀を取り仕切るなど、J・F・ケネディ大統領を伝説にするために数々の思いを胸に行動に移していったのです。
【『ブラック・スワン』を超えたナタリー・ポートマン】
『ジャッキー / ファーストレディ 最後の使命』が世界でお披露目されるや、ナタリーの素晴らしいパフォーマンに賛辞が相次いでいました。
見た目は全然ジャッキーに似ていないナタリーがどんな芝居で圧倒してくれるのか。優等生女優から大人の女優へと大きく羽ばたいた『ブラック・スワン』を超えられるのかと、大きく期待し、ハードルをかなり上げて試写で見させていただいたのですが、もう「超えた、超えたよ!」と大興奮でした。
まずナタリーが本来持っている知性や気品が、この役には不可欠で、そういう意味でも彼女は適役でした。また全編出ずっぱり! 出てないシーンあるかなくらいな感じで、カメラはずっとジャッキーを追い駆けています。特に夫が暗殺されてから葬儀までの数日、マスコミや国民の前では、このような理不尽で残酷な出来事にあっても屈しないという意志を持って、力強く行動するジャッキー。
けれど心の中は常に悲しみと苦しみと悔しさの渦の中。自室でずっとこらえていた悲しみがあふれ出すときのジャッキーの涙。バスルームで見せる後姿なんて背骨まで泣いているような……。この映画はジャッキーそのもの、彼女の心の中に入り込んでいくような気持ちになるんですよ。これ紛れもなく名演でしょう。
【演出、衣裳、音楽も美しい作品】
本作は映画の構成も素晴らしいのです。暗殺事件から、ホワイトハウス内の混乱、ジャッキーと家族、ジャッキーとスタッフなどを時系列で見せつつ、ジャッキーがファーストレディの仕事と夫との思い出をジャーナリストに語るシーンが挿入されていきます。幸福な日々を垣間見れるからこそ、余計に暗殺で夫を亡くしたことが胸に迫るんです。
音楽も感動を煽る系のドラマチックなスコアではなく、彼女の心の乱れを旋律に乗せたよう。美しく耳に残るかと思えば、ちょっと不安にさせるような、恐怖さえ感じさせるような……。音楽担当は英国出身のミカ・レヴィです。
そして衣裳は、事件が起こった時に着用していたピンクのシャネルスタイルのスーツや赤いスーツ、部屋着も様々なタイプが登場。これはすべて衣裳デザイナーのマデリーン・フォンテーヌが手作業で仕上げたそうです。
最高レベルの仕事をした俳優と音楽家とデザイナーなどを束ねたのはパブロ・ラライン監督。何と本作が初の英語作品というチリ出身の監督です。アメリカのファーストレディの映画だけど、アメリカ人監督じゃないっていうのが意外ですが、逆に客観的な視点でとらえることができたからこそ良かったのかもしれません。
なぜアカデミー賞作品賞、あるいは監督賞候補にならなかったのか不思議。エンタメ系ではないので賛否両論あるかもしれませんが、ひとりのファーストレディの心の奥底まで入り込んだ『ジャッキー / ファーストレディ 最後の使命』。大統領の妻の覚悟をしかと見届けてください。
執筆=斎藤 香(c)Pouch
『ジャッキー / ファーストレディ 最後の使命』
(2017年3月31日より、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー)
監督:パブロ・ラライン
出演:ナタリー・ポートマン、ピーター・サースガード、グレタ・ガーウィグ、リチャード・E・グラント、ビリー・クラダップ、ジョン・ハート
(C)2016 Jackie Productions Limited