2017年9月3日、オーストラリア・シドニーにあるオペラハウスで、9時間に渡るアートインスタレーションが行われました。
イギリス・ロンドンを拠点に活動しているウィーン出身のアーティスト、ノエミ・ラクマイヤー(Noëmi Lakmaier)さんがアシスタントと共に用意したのは、2万個の風船。カラフルな風船にはヘリウムガスが詰め込まれていて、風船から伸びたひもの先にはラクマイヤーさんの体がくくりつけられています。
風船でふわりと宙に浮かぶ。そう聞くとファンタジックに感じられますが、インスタレーションの様子はちょっぴり異様です。
【風船で吊るされて、宙吊りに】
撮影された写真を見ると、ラクマイヤーさんは風船の糸でぎちぎちに拘束されていて、体の自由は効きそうにないし、そのまま長時間宙づりになるということ自体、想像を絶します。
少なくとも絶対に快適ではないと思うし、不安で心許ないような気持ちになってしまいそう。トイレはどうするのかな……と、要らぬ心配までしてしまいましたよ。
【「幸福に対する恐怖症」がタイトルに】
しかし、わたしが作品から感じた “不自由さ” や “心許なさ” は、あながち的外れではなかったよう。
作品のタイトルは『Cherophobia(ケロフォビア)』。幸福に対する恐怖症を意味するそうです。
ラクマイヤーさんはこの作品について、「幸せが達成されたら、なにか恐ろしいことが起こるかもしれないと思い込み、幸福や楽しみを得る機会を自ら回避してしまうことを指す」のだと、自身のサイトで説明しています。
ラクマイヤーさんは障害を抱えており、自分のことを「障害をもった、セクシュアル・マイノリティな移民者の女性」だと表現。この作品のことを、「人間であることの意味を視覚化し、パフォーマンスへ昇華させるという実験的な探索」だと語っています。
【ロンドンでは48時間に渡るパフォーマンスを決行】
『Cherophobia』は、2012年のロンドンオリンピック・パラリンピックの主要文化プログラムの一環として、障害や聴覚に困難を抱えるアーティストの創造活動を支援するために発足した芸術祭「Unlimited」から支援を受けて制作された作品です。
2016年9月に、ロンドンの聖レナード(St Leonard)教会で発表された際には、制作過程を含む48時間(!)にもおよぶパフォーマンスを行ったのだそう。
その様子は動画サイトVimeoで観ることができます。教会というロケーションもあるのか、アートというよりも、なにか神聖なものを観ているような気持ちになりました。みなさんもぜひ、ご覧になってみてくださいね。
参照元:Noëmi Lakmaier、Mashable、Vimeo、Red Bull
執筆=田端あんじ (c)Pouch