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アカデミー賞最有力映画『スリー・ビルボード』はモンスターママの怒りが爆発! 予測不能な展開に震えが止まらない【本音レビュー】

2018年2月21日

【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、アカデミー賞最有力といわれる『スリー・ビルボード』(公開中)です。作品賞、主演女優賞(フランシス・マクドーマンド)、助演男優賞(ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェル)、脚本賞、編集賞など主要部門にノミネートされており、全米大絶賛の作品。日本公開後のレビューも好評です。

母の復讐劇かと思ったら、その母が凶暴過ぎてビックリ。物語が展開するたびに「え~!」ってことが起こる、予測不可能な映画なのです。(以下、ネタバレを含みます!)

【物語】

アメリカのミズーリの田舎町の道路に並んだ3枚の看板。そこには「レイプされて死亡」「なぜ? ウィロビー署長」「犯人逮捕はまだ?」というメッセージがありました。

このメッセージ広告を出したのは、主婦のミルドレッド・ヘイズ(フランシス・マクドーマンド)。広告を出した理由は、自分の娘がレイプされて殺されたのに犯人は捕まる気配がないため、業を煮やし、広告で警察を急かしたのです。

ところがこれをきっかけに、ミルドレッドと家族、警察官たち、広告会社のスタッフの間で大騒動が起こるのです。

【娘を殺されたヒロインが、いつのまにかモンスターママに!】

愛する娘を殺され、犯人が捕まらないまま月日が流れていくことに耐えられないミルドレッド。最初は私も可哀想だと思っていました。娘が亡くなる前日、車を貸してくれという娘にNOと言ったために、売り言葉に買い言葉で喧嘩別れしたまま、娘を失ったのですから。母親としては、辛いですよねえ。

しかし、彼女の怒りの矛先が警察へ向かい「なんで犯人捕まえられないのよ、このポンコツがっ!」みたいな怒りのまま広告を出してから、事態は変わります。

警察がそんなホイホイと事件を解決できるわけがなく、「努力しているが、すべてがうまくいくとは限らない」と署長に説得されても、ミルドレッドは聞く耳を持たず、悪態をつきまくるのです。

町中の尊敬を集める署長を批判しまくるミルドレッドに対して、町の人は怒り心頭。それに対する彼女の怒りのボルテージも上昇しっぱなし。

嫌がらせや抗議を受けても、一歩も引かないどころか、自分に刃向う者を次々叩き潰していくように。可哀想な母親ではなく、乱暴で恐ろしいモンスターママ化していくんです!

【凶暴でおバカな不良警官も登場】

一方、警察には、ディクソンというやる気のない不良警官(サム・ロックウェル)がいるのですが、彼が唯一尊敬しているのが署長です。

そんな署長を侮辱するような広告を出されて、怒りに燃えたディクソンは「広告を引き上げろ!」と、広告社のレッド(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)に訴えます。

しかし受け入れられないと知るや「引き上げないならこうしてやる!」と、レッドをボコボコにして病院送りにしてしまうのです。警官なのに、なんてこと!

ディクソンも、ミルドレッドに負けず劣らず、わけのわからない凶暴さがあり最悪。レッドが気の毒でたまりません……。

【「なんでこうなるの?」という展開に驚き】

そんな風にミルドレッドとディクソンがどんなに暴れても、署長は常に平常心。実は署長は大病を抱えていて、自分の命に不安がありました。気がかりなことはたくさんありますが、そのひとつが部下のディクソン。彼はディクソンに前向きになれるような手紙を残します。

署長を尊敬しているディクソンは、あんなにおバカで仕事できなかったのに、手紙を読んで感動。ミルドレッドの娘の事件を本格的に捜査しようと動き出すのです。

しかし、その矢先にミルドレッドの警察への攻撃に巻き込まれてしまい、またもや「えー!」ですよ。この映画は始まってから最後まで、ずーっと「なんでこうなるの?」の連続なんです。

【怒りから幸福は生まれない】

ミルドレッドと警察とのエピソード以外にも、ミルドレッドと元夫&息子とのエピソードもあり、これも一筋縄ではいきません。本作は「めでたしめでたし」のカタルシスを感じる映画ではないのです。

人生を左右する出来事と対峙したとき、人は変わるのか、また怒りはどう発動され、その頂点はどこにあるのか……と、ミルドレッドの行動を見ながら考えました。そして一つだけわかったことは、怒りから幸福は生まれないということです。

ラストにも「そういう終わり方なの?」という驚きがありますが、笑えるシーン、泣けるシーン、胸がしめつけられるシーンも。

「こうなるであろう」というこちらの想像をはるかに飛び越え、あぜん、ぼうぜんとなってしまう展開で、観客の感情を揺さぶるオリジナリティがハンパない。本当に凄い映画です。

映画で刺激を得たい人に超おすすめ。モンスターママの凄味をスクリーンでぜひご覧ください!



執筆=斎藤 香 (C) Pouch

『スリー・ビルボード』
(2018年2月1日より、TOHOシネマズ日本橋ほか全国ロードショー)
監督:マーティン・マクドナー
出演:フランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェル、アビー・コーニッシュ、ジョン・ホークス、ピーター・ディンクレイジ、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ルーカス・ヘッジズほか
(C)2017 Twentieth Century Fox

▼映画「スリー・ビルボード」予告編

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