【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
今回ピックアップするのは、ドラマ「時効警察」などの三木聡監督の最新作『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』(2018年10月12日公開)です。
イジョーに長いタイトルですが、このタイトルが物語のすべてを表しています。というか、一人の女性シンガーの人生を変える言葉なのです! 爆笑コメディを装いつつ、けっこう胸にグサっとくる映画でありました! では物語から~。
【物語】
脅威の歌声を持つロックスター、シン(阿部サダヲ)。しかし、彼の歌声は“声帯ドーピング”で作られており、長年のドーピングでシンの喉は壊滅の危機にありました。
ストリートミュージシャンのふうか(吉岡里帆)は、自分に自信がなく、イジョーに声が小さい。彼女の歌を聞いたシンは「音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!」と毒づきます。水と油のふたりに見えましたが、ふうかは、シンの声の秘密を知ったことをきっかけに、彼の声を守るため、奔走することに……。
【大声と小声の男女による濃厚なバディムービー?】
本作は、声帯ドーピングの暴走ロックスターと、何事にも自信が持てず消極的な小声のミュージシャンのバディムービーです。大声と小声のコンビに加え、周囲の人々も現実にはありえない変人揃いで、奇妙奇天烈な世界が描かれていきます。
シンはライブで、喉から血を噴水みたいにまき散らしながら絶叫するし、ふうかの親戚のザッパおじさん(松尾スズキ)とデビルおばさん(ふせえり)は、寄り目キャラと魔女キャラという特異な存在だし、アイパッチの女医(麻生久美子)やよろこびソバのおじさん(森下能幸)など、半妖怪みたいな人がたくさん出てくるんですよ~。よく見る街の風景と奇妙な世界が共存した、本当に「なんだこれは!」なヴィジュアルの映画です。
【シンとふうかは、もしかして運命のふたり?】
そんな変人に囲まれながらも、シンとふうかのエピソードはすごくしっかり練られているので、物語にグイグイ引き込まれていくんです。シンは、ロックビジネスの餌食になり、声がつぶされることがわかりながらも、ドーピングを繰り返していたのですが、そんな彼をふうかは真剣に心配。
おそらく心から心配されたことがないであろうシンは、自分を利用するために追いかけてくるロックビジネスの人間たちを振り切って、ふうかと走り出すわけです。
一方、ふうかは「お前の声は心の不燃物!」とシンに罵倒されても、反発する自信も勇気もなく、音楽から離れてグズグズグズ……。見かねたシンは「やらない理由を探すんじゃねえ」とふうかを一喝。それをきっかけに、ふうかは逃げまくっていた自分に気づくんです。
お互いに刺激を与え合っていたふたり。そんなシンとふうかが一緒に走り出す後半はドキドキしっぱなしでした。2人が逃亡した先の韓国編がまたビックリな展開なのですが、シンは自分のロックスピリットをふうかに託し、「声が小せぇっ!」と言われ続けてきたふうかの音楽魂のスイッチが入るという展開は感動的です!
【音楽と阿部サダヲに泣かされる!】
この映画の主題歌「体の芯からまだ燃えているんだ」(作詞・作曲:あいみょん)がまた素晴らしく、「届け!」という歌詞が、映画の最後とリンクして、もう泣けて泣けて仕方ありませんでした! シンの楽曲「人類滅亡の歓び」はHYDEが作曲を手掛けていますが、これも地獄のロックンロールみたいでかっこいい。音楽にも注目です!
阿部サダヲさん、吉岡里帆さんはじめキャストも全員、大熱演で、特に阿部さんは破天荒だけど実は繊細なシンにピッタリ。傑作映画『彼女がその名を知らない鳥たち』での名演に続く素晴らしさで、またもや阿部さんに泣かされましたよ!
アクの強い映画なので、見た人全員が「イェ~イ!」とはならないかもしれませんが、心にバチっとはまると楽しめる作品。むしゃくしゃしているときとか、発散したいときなどいいかも。とりあえず「なんだこれ!」な世界を面白がり、最後はシンとふうかに思いきり泣かされてください!
執筆=斎藤 香 (c)Pouch
『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』
(2018年10月12日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
監督&脚本:三木聡
出演:阿部サダヲ、吉岡里帆、千葉雄大、麻生久美子、小峠英二、片山友希、中村優子、池津祥子、森下能幸、岩松了、ふせえり、田中哲司、松尾スズキほか