【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。
今回ピックアップするのは映画『新解釈・三國志』(2020年12月11日公開)です。福田雄一監督と大泉洋が初めてタッグを組んだ「三国志」の世界とは!
福田監督作なのでお笑いに走るのはわかっているのですが、すでに映画化されていたり、ゲーム化されていたりする「三国志」をどう料理したのでしょうか。
私は「三国志」について全然詳しくないので、「福田監督の新作を観る」というスタンスで鑑賞させていただきました。では物語から。
【物語】
今から1800年前。中華統一を巡り三国「魏・蜀・呉」それぞれの英雄たちが勢力を拡大させるために対立していた時代。民の平穏を願い続け、人望も厚く、のちに初代皇帝となる男・劉備(大泉洋)が立ち上がった。そしてやがて魏軍80万 vs 蜀・呉連合軍3万という「赤壁の戦い」に突入するのです!
【こんなにぼやく英雄っている?】
物語を読むと「ちゃんとした三国志?」と思うかもしれませんが、全然ちゃんとしていませんでした。でもそれは福田監督の狙いでしょう。
何しろ、英雄と湛えられた劉備が、ずーっとぼやいているっているんですよ。「こんな闘いやめない?」みたいな。もう面倒くさいと言わんばかり。
特に帳飛(高橋治)と関羽(橋本さとし)と3人コンビに孔明(ムロツヨシ)が加わると、お笑い大暴走!
飲み仲間がグダグダと愚痴ったりしている感じ。また本来ならば、幼い帝をコントロールし、裏で権力をふるっていた暴君・董卓は、佐藤二朗さんならではの独特なリズムのおしゃべりにより、まったく怖くない暴君になっていました。まあ、脱力感が福田監督作の特徴だと思いますが、これほどとは!
【想像以上のコント映画でした】
つまり『新解釈・三国志』は、登場人物が繰り出すコントを繋いでいく形で物語が進行していくんですね。
次から次へと笑いを提供する、その底力は見事なものです。でもエピソードが突然ブチっと切れて、次のシーンが始まるような印象もあり、正直ちょっととまどいました。
笑いありきで作られている映画なので福田監督作品のファンにとってはたまらない映画だと思います。ただ、笑いのツボが合わないと厳しい印象。好き嫌いがハッキリと分かれそうです。
私は福田監督の『ヲタクに恋は難しい』や『50回目のファーストキス』が好きなのですが、あれは主役の男女の恋がベースにあり、二人の気持ちを大切に描いていたので、ギャグの要素は比較的ライトだったのではないかと思います。
この映画は福田エキスが濃縮されているので、個人的には、ちょっと置いてけぼりになった気持ちになりました。
【スター競演でスクリーン華やか!】
ただ、キャストの豪華さはもうキラキラもんです。大泉洋さんを主演に据えて、既出の人以外にも、小栗旬、橋本環奈、岩田剛典、渡辺直美、賀来賢人、城田優、岡田健史、山田孝之など、主演級の俳優がズラリ!
そんなスター俳優陣が笑いに貪欲に挑戦している姿もこの映画のチャームポイントでしょう。ちなみにHPにも名前が出ていないスター俳優がゲスト出演しています。出てきた途端「え!」と驚きましたよ。これはお楽しみポイントですね。
なんだかんた書きましたが、これだけのスターを集められるのは、福田監督が映画界で信頼を得ている証。コメディ路線を貫くまっすぐなお笑い愛、笑いに真摯の向き合い続ける姿勢に、俳優たちが共鳴するのでしょう。
ただ、あまりのふざけっぷりに主演の大泉洋さんは「三国志ファンや中国が怒るんじゃないかと心配」(公式HPより抜粋)とぼやいていました。
本作はあくまで「新解釈」!これから観るみなさんも「新解釈」の「三国志」であること、福田雄一作品であることを念頭において観てくださいね。
執筆:斎藤 香(C)pouch
『新解釈・三國志』
(2020年12月11日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
監督・脚本:福田雄一
出演:大泉洋、賀来賢人、橋本環奈、山本美月、岡田健史/橋本さとし、高橋努/岩田剛典、渡辺直美/磯村勇斗、矢本悠馬、阿部進之介、半海一晃、ムロツヨシ、山田孝之、城田優、 佐藤二朗/西田敏行(語り部)、小栗旬