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菅田将暉&有村架純の『花束みたいな恋をした』はありふれた恋だからこそ痛いほど切ない / 坂元裕二が描く「恋が終わるまで」のリアルさ

2021年1月29日

【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは菅田将暉&有村架純主演映画『花束みたいな恋をした』(2021年1月29日公開)です。

本作の脚本は、ドラマ「東京ラブストーリー」で一世を風靡し、高橋一生を人気俳優に押し上げた「カルテット」の坂元裕二さん。

2021年始まったばかりですが、今年のベスト3の1本になりそうな傑作ラブストーリーです。試写で観させていただきましたが、号泣!では物語からいってみましょう。

【物語】

2015年、八谷絹(有村架純)と山根麦(菅田将暉)は、それぞれわけあって終電間近の時間に京王線・明大前の改札にダッシュしますが終電を逃してしまいます。

ふたりはその時に出会い、カフェで時間つぶしをすることに。ふたりは趣味が一緒でライフスタイルも似ており、すぐ意気投合。何度が会うようになり、麦が絹に告白をしてお付き合いするように。やがてふたりは同棲しますが、時の流れはふたりの気持ちを変えていってしまう……。

【どこにでもいるカップルの出会いと別れ】

ラブストーリ―には、愛し合う男女を引き裂く障害というのがお約束のように存在します。年齢差、生活格差、遠距離、ライバルの存在など。でも『花束みたいな恋をした』には、主役のふたりの間を引き裂く人物も状況もありません。そこにあるのは、ふたりの生活だけです。

「じゃあ、なんで別れるの?」と思うかもしれませんが、普通のカップルが別れるとき、浮気されたり、遠距離で心が離れたりという場合もあるかもしれませんが、一緒にいても心がすれ違い、離れていくことは大いにあります。

大好きでも、ふたりは別の人間であり、別々の人生を生きているし、時の流れとともに気持ちも変化していくからです。

この映画は、両想いになった麦と絹の5年間にわたる恋愛を描いています。

大好きな気持ちが高まっても、それを永遠に維持できるほど、恋愛は絶対ではない。それはとても儚いものであることをこのカップルは見せてくれるのです。

【恋愛を現状維持することの難しさ】

本作の前半、観ているこちらもニコニコしてしまうほど、麦と絹はラブラブです。駅から徒歩30分だけど眺めのいい新居、ふたりがお散歩中に見つけた可愛いパン屋さん、好きな作家の本、ゲームなどを共有できる幸せ。

「私にもこんな時間があった!」と懐かしい気持ちになってキュンする人は多いと思います。そんな他愛もない素敵な時間がこの映画には散りばめられているのです。

麦は将来について「絹ちゃんとの現状維持」と言います。この幸せがずっと続きますようにということなのですが、この言葉が次第に効いてきます。それがとても難しいことだとわかるからです。

【誰も悪くないのに、切なくて仕方がない】

ふたりは生活のために働きます。好きなことを仕事にしたいという絹。

一方、麦は、イラストを描くという好きなことで仕事をもらいますが、ギャラが安く困難を極めた経験を経て、好きなことと仕事を切り離して考えるようになります。

仕事を優先するようになった麦は、好きな世界を大切に生きていきたい絹のことを「考えが甘い」と思うようになります。

イライラする麦の気持ちを察して、笑顔でお茶を入れてあげる絹。彼女だって言いたいことがたくさんあるはずなのに、すべて飲み込んでやさしい恋人であろうとするのです。そんな彼女のやさしさを感じて、申し訳なさそうな麦。

世界が広がれば、出会う人も変わり、人生に変化が訪れるのは仕方がないこと。二人の関係がズレてしまうのも仕方のないこと。でも、二人はギクシャクした関係を修復しようと必死。そんな姿がとてもけなげで切なくて切なくて。

【菅田将暉、有村架純の素晴らしさを引き出した坂元裕二の脚本】

坂元さんの脚本は大げさな展開で視聴者をひきつけるのではなく、言葉の積み重ねでドラマを構築していくので、セリフがボディブローのように効くんですよね。

本作でも麦と絹のセリフでふたりの思いの変化をさりげなく綴っていて素晴らしかったです。

特に後半のファミレスのシーンはもう涙腺崩壊。あんなに仲が良かったのに、わかりあっていたのに、幸せだったなのにね……みたいな展開で、これ書きながらも思い出して泣けてくる……。 

男の往生際の悪さも巧く描かれていて、本当にうまいなと思いました。その脚本を演じきった菅田将暉&有村架純の好演。そしてこの映画を素晴らしいラブストーリーに仕上げた土井裕泰監督にも拍手!土井監督は『罪の声』も素晴らしかったし、もっともっと映画を撮ってほしいです。

どこにでもいるであろうカップルの始まりと終わりの5年間がとても美しく濃密に描かれた『花束みたいな恋をした』。とても切ないけど素晴らしい恋愛時間をお約束します。

執筆=斎藤 香 (c)Pouch

花束みたいな恋をした
(2021年1月29日よりTOHOシネマズ日比谷ほか、全国ロードショー)
監督:土井裕泰
脚本:坂元裕二
出演:菅田将暉 有村架純/清原果耶 細田佳央太/韓英恵 中崎敏 小久保寿人 瀧内公美/森優作 古川琴音 篠原悠伸 八木アリサ/押井守 Awesome City Club PORIN/佐藤寛太 岡部たかし/オダギリジョー/戸田恵子 岩松了 小林薫

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