【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。
今回ピックアップするのは綾野剛と成田凌が共演するサイコミステリー『ホムンクルス』(2021年4月2日公開)。演出は『呪怨』シリーズの清水崇監督。ホラー界の巨匠と人気俳優の綾野剛、成田凌が組んだ新作です。
原作は、人気漫画家・山本英夫のカルト漫画「ホムンクルス」。
主人公が頭蓋骨に穴をあける手術をすると……という、恐ろしいスタートなんですが、怖いもの見たさでグイグイ引き込まれちゃいました。ではストーリーから。
【物語】
車上ホームレスの名越進(綾野剛)は、過去の記憶も感情もなく、社会から孤立して生きていました。
そこに突然現れたのは、研修医の伊藤学(成田凌)。彼は名越に「頭蓋骨に穴を開けさせてほしい」と依頼をします。
手術をすると第六感が芽生えるという伊藤。
「生きる意味を与えます」という彼の言葉に、最初は断っていた名越は興味を抱き、手術を受けることにするのですが、そのときから他者には見えないものが見えるように……。
【誰もが抱えている過去と深層心理】
最初に「頭蓋骨にドリルを穴をあける」と聞いて背筋がゾッとし、加えて演出が、キング・オブ・ホラーの清水崇監督と知り、もしかしたら見ていられないくらい恐ろしいホラーなのではないかとビビっていました。
ところが、封印していた他者の深層心理がカタチになって見えるという展開に、恐ろしさよりも興味シンシンに。
名越はトレパネーション(頭蓋骨に穴を開ける手術)をし、右目を隠して左目で対象者を見ると、その人の深層心理が具象化して見えるようになるのです。
ヤクザの親分(内野聖陽)に絡まれたとき、左目で彼を見ると、ガンダムみたいなロボットの姿で自分を指を切り落とそうとしてました。
また女子高生(石井杏奈)の姿は、砂ほど極小の記号の塊に見えます。いずれも過去のトラウマや誰にも言えない現在の苦悩が、その姿に宿っていたのです。
こういった過去の過ちや苦しみの心理は誰もが抱いているものだと思うんです。ゆえに「自分は名越からどんな風に見えるのか……」と考えてしまいました。
人生を立ち止まらせるトラウマや苦悩を暴いていく名越ですが、意外にもその行為が彼らにとって人生の歩みを進めるチャンスとなるのです。
見たくないもの、知られたくないことを暴かれるから、そりゃ苦しみますが、その先の人生が見えてくるようになると言う展開は、意外にも希望があるものでした。
【綾野剛と成田凌の怪しさ満点の2ショット】
キャスティングは最高でしたね。名越と伊藤を演じる綾野剛さんと成田凌さんはやっぱり良かった。
二人が名越と伊藤を演じたことで、本作の映画としてのレベルはかなり引き上げられたと思います。
非現実的な内容で深層心理の映像もユニークなのですが、一歩間違えるとB級サスペンスになってしまう難しい題材を、綾野、成田、そしてヤクザを演じた内野聖陽さんの確かな存在感がこの映画に血を通わせていると感じました。
成田さんは『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』の役を彷彿させるヤバめな役ですが、彼が演じると変人だけど惡の華のような魅力が放たれ、心持っていかれる……。これがスター俳優のオーラというものかもしれません!
【自分のホムンクルスと向き合う】
ちなみにホムンクルスとはヨーロッパの錬金術師が作り出す人造人間、またはその技術のことだそうです。
名越の左目が作り出すのがホムンクルスだとしたら、伊藤のホムンクルスは?そして名越自身のホムンクルスは?
名越が記憶喪失なのはなぜか。その記憶がホムンクルスとなって現れるのか。
そこは映画を観てのお楽しみなんですが、後半、名越や伊藤の深層心理にフォーカスが当たり始めると、前半とは少し趣がかわって、ホラーテイストから心理サスペンスのタッチになり、名越や伊藤の過去へと繋がっていくという……最後まで目が離せません!
頭蓋骨にドリルで穴を開けると聞くと、ドン引きしそうですが、綾野剛と成田凌がスターオーラを放ち、存分に楽しませてくれるので大丈夫です! スリリングな刺激をぜひお楽しみください。
執筆:斎藤香(c)Pouch
『ホムンクルス』
(2021年4月2日より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー)
監督:清水 崇
原作:山本英夫「ホムンクルス」(小学館「ビッグスピリッツコミックス」刊)
出演:綾野 剛 成田 凌 岸井ゆきの 石井杏奈・内野聖陽