ンギャァアーーッ! ンギャァアァァアアーーーーッ!
赤ちゃんの泣き声てものは、鬼気迫るものがあります。特に電車など人の多い密室の空間なら尚更。
コミュニケーションが「泣く」がメインの赤ちゃんに対し、ありとあらゆる知恵を使い、準備して電車に乗りこむ大人たち。
しかしあやすために用意したグッズは無慈悲にも投げ捨てられ、泣き声は大きくなり「ドウシタライイノカ」と魂が飛ぶような放心状態になることも(私)。
まさにそんな“ギャン泣き”状態に赤ちゃんが陥ったある日、不思議な女性に出会ったのです。
【赤ちゃん泣きやまず心折れかけた瞬間…!】
ガラガラの電車に乗っていた日のこと。赤ちゃんが「うぅぅう…」と唸りだし、口がへの字に。これは…泣く準備だ。急いで対策しようとするも、への字の口はやがて大きく開きだし「うぅぅ…ンギャァアーーッ!」と大泣きしはじめてしまいました。
周りの目線を恥ずかしく感じながら、おもちゃを鳴らし、子守唄を歌い、お菓子を渡すもすべてダメ。
隣に座っていた人は遠くへ移動していき、斜め向かいに座っていたサラリーマンはこっちを睨みつけて何度も舌打ちしてきます。
降りたくても急行でしばらく降りることができず、いたたまれない気持ちで他の車両へ移動するかと準備をしていると……私の向かいに座っていた倖田來未さんのような出で立ちのギャルがイヤホンを外し、スマホから爆音でK-popを流し始めたのです。
【車内に響く赤ちゃんの泣き声とK-pop】
彼女はずっとスマホを見たまま、DJのようにどんどん曲を変えていきます。「赤ちゃんがうるさすぎるからスマホで流すわ」ということなのでしょうか。初めての光景に頭は混乱。
停車駅に着くまでの5分間が1時間に感じるほどの緊張が続く中、ついに舌打ちサラリーマンが他の席へ移動しました。そうして広い長椅子に、私と赤ちゃんとギャルだけに。
すると彼女がこっちを見て、ゴソゴソと何かをし始めました。ど、どうしたのかな……と思った瞬間立ち上がり、私たちのところへスタスタ歩いてきたのです。
【抱っこ紐の中にお金を入れてきた】
突然目の前にやってきた彼女は、赤ちゃんの背中へスッと何かを入れました。ビクビクしながら見てみると、そこには1万円札が!!!!
そうして長い黒のネイルを施した手をひらりと振りながら、笑顔で「お年玉」と言い、タイミングよく到着した電車の扉から去って行ったのです。
ビックリしすぎて、フリーズしてしまった私。あわてて電車を降りて追いかけましたが、彼女は見当たらず、ありがとうも言えませんでした。
【わざと音を漏らしてくれた?それとも…】
そのときは「何が起きたのか」と混乱していたものの、あとになって「わざと爆音で音楽をかけて赤ちゃんの泣き声を緩和しようとしてくれたのかな」とか「タクシー代として1万円を渡してくれたのかも」と思えるように……しかし、真相はわからず。
ただ、あの瞬間に私が素直に感じたのは「ありがとう」という気持ち。追い詰められていた環境で、誰かが気にかけてくれるのは本当にありがたいなと。そのやり方はいろいろあれど、こういう方法もあるんだと知ったのでした。一万円札は使わずに神棚に供えてあります。
撮影・執筆:百村モモ
Photo :(c)Pouch