【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
今回ピックアップするのは、鶴谷香央理さんの同名漫画の映画化『メタモルフォーゼの縁側』(2022年6月17日公開)です。17歳の高校生と75歳のおばあちゃんが、ボーイズラブ漫画を通して友情を深めていく物語。これが個人的には、今年のベスト3に入るんじゃないかってくらい素敵な作品だったのです! では物語から行ってみましょう。
【物語】
17歳のうらら(芦田愛菜さん)は、引っ込み思案で、同級生みたいにキラキラした青春を謳歌できないでいました。唯一のお楽しみは大好きな漫画を読むこと。特にボーイズラブ(以下、BL)漫画が大好き!
そんな彼女がある日、アルバイト先の本屋で75歳の雪(宮本信子さん)と出会います。表紙が綺麗だからという理由でBL漫画を購入した雪ですが、たちまちトリコに。雪はBL漫画家のコメダ優(古川琴音さん)のファンになり、彼女の漫画を買い求めて本屋に通ううち、うららと仲良くなり、BL愛を語り合う親友同士になっていくのです。
【大好きな世界は、世代を超えてわかりあえる!】
観終わったあと、こんなに幸せな気持ちになれる映画って本当に久しぶり! 大好きな世界について、他者と熱く語り合えることがこれほど人生を豊かにしてくれるとは……と、もう感動に心が震えっぱなし。
何より友情に年齢は関係ない、「好きなことを語り合う相手は、何歳でもいいんだ、誰とでも親友になれるんだ!」というメッセージが最高なのです。人間関係は、年齢差でブレーキをかけることないんだとちょっと嬉しくなりました。そんなふうに感動できたのは、やはりうららと雪さんが魅力的だったからです。
【うららと雪さんの素敵な関係】
ヒロインのうららは、人付き合いが苦手。漫画のことを語り合える友達が欲しいけど、心のどこかで「そんな友達できるわけない」と諦めているような感じです。そんな彼女の目の前に現れたのが、70代のおばあちゃんの雪さん。
うららに漫画のことを聞いたら、イジョーに詳しいので「もっといろいろお話ししたいわ」なんて展開になり、雪さんの家に漫画持参でお邪魔をして、縁側で大好きなボーイズラブ漫画について、熱く語り合うことになるのです。
どこか寂しそうだったうららが、イキイキとしていく様は見ているだけで、こちらも幸福な気持ちに。ひとりの時間もいいけど、楽しい時間を共有できる友だちの存在はやっぱり大きい。そして、そんな出会いが思いもよらない形で現れるというのが、幸運が舞い込んできたようで、すごくいいんです。
【最高に魅力的な70代、雪さん!】
おばあちゃんと若者の物語は、たくさんありますが、どこか人生の先輩的な存在になりがちです。でも、本作の雪さんは、ちょっと違います。常にうららと対等な立ち位置にいて、決して上から目線でモノを言いません。
雪さんがうららに「漫画を描いたら?」と勧めたとき、うららは「才能がないから」と、前に進もうとしない。そんなうららに雪さんはこう言うんです。「才能ないと描いちゃいけないの? 私だったら描いちゃうな」と。
この言葉が、うららの心に刺さります。たしかに才能なんて他人が決めること。描きたければ描いてしまえばいいんですよね。 人生の先輩のありがたいお言葉ではなく、友だちである雪さんの素直な言葉だからこそ、響いたんだなあと。演じる宮本信子さんがとても可愛くエレガントに雪さんを演じていて、雪さん、本当に素敵でした。
【女子高生もシニア世代も共感できる映画】
よく若い世代に人気のある作品は、シニア世代はわからない。逆にシニア世代に人気のある作品は、若い世代には、感覚が古すぎてわからないと言われがちではないでしょうか。
でもこの映画は、両世代の感覚をしっかり捉えているから、すんなり受け止めることができるのではないかと。若い人は、うららの気持ちがわかるし、シニア世代は「雪さんみたいに生きてみたい」と思える。両世代がそんな風に感じることができる映画ってなかなかないと思うんですよ。そう言う意味でもこの映画は本当にミラクル!
まさにスクリーンに爽やかな奇跡を起こした映画と言っても過言ではないでしょう!
執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:©︎2022「メタモルフォーゼの縁側」製作委員会
『メタモルフォーゼの縁側』(2022年6月17日公開)
原作:鶴谷香央理「メタモルフォーゼの縁側」(KADOKAWA)
監督:狩山俊輔
出演:芦田愛菜 宮本信子 高橋恭平(なにわ男子) 古川琴音 生田智子 光石研、汐谷友希 伊東妙子 菊池和澄 大岡周太朗