【映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします】
今回ピックアップする映画は、2017年「このマンガがすごい」(オンナ編)ランキング1位に輝いた岩本ナオさん原作漫画のアニメーション映画『金の国 水の国』(2023年1月27日公開)。浜辺美波さんと賀来賢人さんが声の出演をしていることが話題になっています。
今回の映画紹介レビューのほかに、原作者·岩本ナオ先生にお話を伺えたので「豪華バージョン」でお届けします!
では、物語からいってみましょう!
【物語】
水以外はなんでも手に入る商業国家の「金の国」ことアルハミトと豊かな水と緑に恵まれながらも貧しい「水の国」ことバイカリ。この二国は戦争寸前で、国交は100年以上断絶されています。
そんな中、アルハミト王女サーラ(声・浜辺美波さん)とバイカリの建築士ナランバヤル(声・賀来賢人さん)が、国の思惑に巻き込まれて偽りの夫婦を演じることに。
しかし、お互いを知るうちに心惹かれていくのです。
【心を清らかにしてくれる珠玉のアニメーション映画】
まず試写で鑑賞した感想から申しますと、素晴らしかった! 見終わったあと心が清らかに……そんなアニメーション映画に初めて出会った気がします。
個人的に良かったのは、サーラとナランバヤルが出会って、恋愛へと発展していくプロセス。パッと恋の炎が燃えるのではなく、知り合って、人として尊敬をしあって、その敬う気持ちが恋に発展していく様がふたりらしくて素敵でした。
ナランバヤルはよく喋るしお調子者の一面もありますが、サーラに対しては常に丁寧。
最初はサーラがお姫様だから気を使っているんだと思っていましたが、ずっと変わらず彼女を見守り続けながら、アルハミトとバイカリの国交を開こうと行動に移すナランバヤル。「できる男じゃん!」とちょっとドキドキしましたよ。
サーラは、とても穏やかで優しい女性。なにしろ「怒ったことがない」と自分で言っていたくらいですから。何があっても落ち着いているし、ほんわかしていて可愛らしくお姫様の気品もあります。
華やかなドレスを着たプリンセスとはまた違う魅力があり、癒し系プリンセスとして人気が出そうな予感……!
【脇役キャラも個性派がずらり!】
またこの作品は脇役キャラも最高なんです。
私は金の国の護衛担当ライララがお気に入り。かなりの謎キャラですが、小柄ながら身のこなしが素早く頼りになるんですよ。
金の国の第一王女レオポルディーネの愛人&左大臣のサラディーンのイケメンぶり、金の国の右大臣ピリパッパのインチキくささなど、出てくるキャラクターの個性が強烈かつ面白くって本当に楽しい。
また、お金はあるけど水がない金の国、自然と水はあるけどお金がない水の国。
一触即発状態だけど、ナランバヤルは「お互いにないものを補い合おう」と平和的な解決を試みるんですね。支配ではなく協力! 今、世界が必要としていることではないでしょうか。
【岩本ナオ先生にインタビュー】
さて、ここからはスペシャルコーナー・岩本ナオ先生にインタビュー! 自作の初アニメーション作品を岩本先生はどうご覧になったのか。いろいろな話を伺いました。
【初の映画化作品は製作陣に全てをお任せ】
―岩本先生の作品の初の映画化ですが、率直な感想を聞かせてください。
「これまでも映像化の話はいただいていましたが、なんとなく実現はしないんだろうな、と。今回、お話をいただいたときも “実現するのだろうか” と思っていました。だからご縁があって素直にとてもうれしいです」
―映像化にあたって、これだけは守ってほしいなどのリクエストはしましたか?
「特に大きい要望はこちらから全くなくって。制作スタジオのマッドハウスさんと渡邊こと乃監督に100%お任せしました。ただ原作で国の名前はA国とB国なのですが、制作側から名前をつけて欲しいと言われたので、“金の国アルハミト、水の国バイカリ” という名前をつけました」
【最初からウルウル、エンドロールではビショビショ!】
―完成した映画をご覧になった感想を教えてください。
「100%お客さんの気持ちで観たので、面白かったですし、最初からウルウルしていました。エンドロールでは私が描ききれなかったその後のことを全部描いてくださっていて…そこでボロボロに泣きましたね。これまで2回観させていただいたのですが、2回目になると結構落ち着いて観られました。橋の上の夜のシーンもすごくよかったし、犬のルクマンが穴に落っこちて2人が最初に出会うシーンで、琴音さんの歌がかかっていたのを聴いて、めちゃくちゃ感動してました」
―浜辺美波さんと賀来賢人さんの声はいかがでしたか?
「描いているときに声のイメージはなかったのですが、映画で賀来賢人さんの声を聞いたら “あ、ナランバヤルさんだ!” と思いました。サーラはいろいろなイメージを持たれると思うのですが、浜辺さんの声を聞いて、声の透明感、やさしさが “サーラってこういう感じなんだ” と改めて思いました。キャスティングする人ってすごいですね」
―本当におふたりが役にはまっていましたね!
「アフレコ現場を1度見学したはずなのに、映画を観ている間は声優さんの顔が全然思い浮かばなくて。観終わったあとに、“そういえば浜辺さんと賀来さんだった!” とやっと思い出したくらいで(笑)。声の演技がすごかったです」
【ライララさんのヌルっとした動きに納得!?】
―金の国と水の国の映像はいかがでしたか? それぞれの国の特徴がとてもわかりやすく描かれていたと思うのですが。
「原作漫画を描くとき、二つの国をできるだけ対照的にしたいと思いました。金の国は建物ばっかりで、一歩出たら岩とか土しかないような雰囲気で、緑が全くないみたいな。でもすごく豪華な国にしたいと思っていたので、パッと見でアラビアンナイトみたいなキラキラした感じの国にしました。
水の国はあまり考えていなくて。とにかく対照的にしたくて森など大自然が象徴的な国として、チベット地方をイメージして描いたんです。驚いたのは、映画化するにあたり、漫画で参考にした資料を見せて欲しいと言われたのでお貸ししたのですが、同じもの見て描いてなんでこんなに違うのかと驚きました(笑)。奥行きなど全ての表現が素晴らしくて、さすがマッドハウスさんだと思いました」
―先生のお気に入りキャラはいますか? ちなみに私はライララさんが好きなんですけど。
「あえて言うんだったら…ライララさんはやっぱり楽しかったなと。ライララさんがいるのといないのとでは、読んだあとの印象が変わってしまうと思います。動きがついた映画のライララさん、ヌルッと動くから “あーなるほどなるほど” と(笑)。すごくよかったです」
―金の国では水が貴重だからワインを飲みますよね。またサーラは意外とお酒が強く、水の国の族長とワインの飲み比べをしますが、先生はサーラと飲むとしたらどんな会話をしたいですか?
「私はお酒が強くないので、あんまりワインは飲まないかな…。酎ハイばかり飲んでます。サーラと一緒に飲むとしたら、美味しいおつまみの情報交換をしたいですね。とりあえず昼からは飲まないようにしますけど(笑)」
【映画のメッセージは “やさしさ”】
―この作品は2つの国の対立が物語のベースにあります。その中で平和的な解決をしようとする姿勢が描かれており、若い人にこそ観て欲しいと思いました。先生がこの漫画に込めたメッセージはありますか?
「この作品を描いたのは5、6年前で、そのときはとにかく作品を世に出すことだけに集中していました。今回映画化していただき、改めて原作の漫画を読んでくれる方もいるかと思います。そして、今読むとまた別な感想を持つ方がいらっしゃるのではないかと。
現実に世界で戦争が起こっている世の中、この本を読んで “きれいごとだな” と思われるのが若干怖いと感じます。 “自分の隣にいる人、家族とか友人などにやさしくしよう” と思ってもらえたら…。まだまだ辛い時期が続くかもしれないですけど、少しやさしい気持ちを持ってもらえたらいいなと思います」
―素敵なお話、ありがとうございました。『金の国 水の国』全力で応援します!
構成·文:斎藤 香(c)pouch
Photo:©岩本ナオ/小学館 ©2023「金の国 水の国」製作委員会
『金の国 水の国』(2023年1月27日より全国ロードショー)
原作:岩本ナオ「金の国 水の国」(小学館フラワーコミックスαスペシャル刊)
監督:渡邉こと乃
出演:賀来賢人 浜辺美波
戸田恵子 神谷浩史 茶風林 てらそままさき 銀河万丈
木村昴 丸山壮史 沢城みゆき