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現代と地続きのおとぎ話のような映画『ルート29』綾瀬はるかの新たな一面が見られる作品です

2024年11月9日

【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは綾瀬はるか主演映画『ルート29』(2024年11月8日公開)です。孤独な女性が風変わりな少女に出会って、一緒に旅をするロードムービー。綾瀬はるかさんの出演作は常に華やかな話題作が多い印象があったのですが、『ルート29』は綾瀬さんには珍しくインディーズ系の映画です。

ユニークかつ、かわいい映画でしたよ。では物語から。

【物語】

鳥取の町で掃除員として働いているのり子(綾瀬はるかさん)は、仕事で訪れた病院で入院患者の理映子(市川実日子さん)から、姫路にいる娘のハル(大沢一菜さん)を連れてきて欲しいと頼まれます。

彼女はその願いを叶えようと、理映子から預かった1枚の写真を頼りに姫路でハルを探しまわることに。そしてついに見つけ出したハル。ふたりはルート29を辿って鳥取へと向かうのですが……。

【現実と地続きのファンタジー】

孤独に生きてきた女性が、同じく母と離れて暮らす孤独な少女と出会い、共に旅をする物語なのですが、その旅の道中で出会う人々がみんな風変わりでおもしろいんです。

逃げた犬を探しているという派手な中年女性、死んでいるのか生きているのかわからない妖精みたいなおじいちゃん、現代社会から離れて森の中で生活している親子……。今の時代の話なのに、現代と地続きのおとぎ話みたいなんですよ。

そもそものり子も、突発的に掃除の仕事を放って、会ったこともないハルを探しに行きますし、ハルは森の中の秘密基地でひとり暮らし。丸いメガネをかけたのり子を見て「お前、今日からトンボな」と勝手に“トンボ”と名付けてしまったりして……。

みんなすごくマイペース。登場人物の世界は、時間の流れがとてもゆっくりで、しがらみがなく、とてもシンプルに生きていると感じました。

ただのり子だけ「ハルを母親に元に連れていく」という使命があり、その目的がこの物語を牽引していたと思います。

【新しい綾瀬はるかを見た!】

のり子を演じる綾瀬はるかさんは『レジェンド&バタフライ』(2023年)『リボルバー・リリー』(2023年)など話題作が多いスター女優ですが、本作ではいつもの華やかオーラを封印。

孤独で内気なのり子は、笑顔ゼロでボソボソと話すのですが、その姿は「本当に綾瀬はるかさんですか?」というくらい地味なんですよ。

これまでのイメージを払拭し、作品の中で美しく際立つのではなく溶け込むようなお芝居を見せていて、まさに “新しい綾瀬はるかを見た!” と思いました。

【大沢一菜の圧倒的な個性と可能性】

ハルを演じる大沢一菜さんも素晴らしかったです。大沢さん自身は綾瀬はるかさんの大ファンで、心の中では「かわいい!」「めっちゃやさしい」と大興奮だったそうですが、映画ではぶっきらぼうで、とんがったハルをとても魅力的に演じ切っていました。

芝居が上手いとか、演技派子役というのを超越した唯一無二の存在感。

ハルは大沢さんにしか演じられないのでは、と思いました。もしかして天才かも!

大きな事件が起こるわけでもなく、淡々と進むので、夢の中のお話のような作品ではあるのですが、現実の世知辛さを忘れさせてくれる美しい映画だと思いますし、綾瀬はるかさんの新たな一面に出会える作品でもあります。映像も綺麗なのでぜひ映画館で見ていただきたいです!

執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:©2024「ルート29」製作委員会

ルート29
(2024年11月8日より全国ロードショー)
監督・脚本:森井勇佑
出演:綾瀬はるか ⼤沢⼀菜 市川実⽇⼦ ⾼良健吾 河井⻘葉
原作:中尾太一「ルート29、解放」(書肆子午線刊)

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