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何も知らされずに出演した映画『さや侍』主演の素人がスゴイ【最新シネマ批評】

2011年6月10日

[公開直前☆最新シネマ批評]

映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今週のピックアップは、ダウンタウンの松本人志監督の3作目『さや侍』。今回の作品は時代劇で松本監督は出演せず、主演は、以前、松本監督が司会を務めたバラエティ番組「働くおっさん劇場」で強烈なインパクトをお茶の間にもたらした素人・野見隆明。彼が鞘(さや)しかもたない「さや侍」に扮し、命を懸けて笑わない若君から笑顔を引き出そうと奮闘する物語です。

「働くおっさん劇場」を見たことのない人にしてみれば「野見隆明……誰?」「なぜこの人が主演に?」と思うでしょう。知っていたとしても謎です。

でも映画を見ればわかる! 松本監督が彼に課したのは演技力ではなく瞬発力。野見氏から飛び出す、思いもよらない行動、反応、動きが生まれる瞬間をスクリーンに映し出しています。正直、まったく演技していない野見氏。それもそのはず、野見氏は映画を撮っていることも、松本監督が演出していることも何も知らずに出演していたそうです。

「吉本から連絡があって、DVD作るから来てくださいと。で、山の中、着物を着て走ってくださいと言われ、走りました」(「シネマトゥディ」インタビューより)

松本監督はスタッフに、自分が監督であること、映画の撮影であることなど、すべてかん口令を引いていたそうだ。さや侍は「三十日の業」の刑で、30日の間に若君を笑わせないと切腹になるため、あの手この手の笑いをひねり出すという設定なのだが、野見さんには、一切知らされず、彼はスタッフに言われるがままやっていたのです。「三十日の業はみんなガチです」と松本監督。すごいシロウトを抜擢したもんです。

時代劇をやろうというより「日本人独特のメンタリティーとして切腹が浮かび、切腹がイヤでジタバタする男の話にしようと。そういう人もおったと思うんですよ」と松本監督。野見さんを抜擢したことについては、「映画『しんぼる』の次は、野見さんに出てもらおうと思っていたんですが、主役ではなかった。でも僕が股関節の手術をすることになり、野見さん主演でいくことになったんです。野見さんでやるなら……と考えたとき、鞘しか持たない侍の話もありだなと」

こうして広がっていった『さや侍』の世界。チャンバラではなく笑いで闘う男の時代劇というのは新機軸かも? まあ、主人公が何考えているのはわからないという点もあるのですが、物語の中で、娘(熊田聖亜)と門番ふたり(板尾創路&柄本時生)が、さや侍をサポートするのと同じく、子役の聖亜ちゃんと板尾&柄本コンビが、芝居でシロウトの野見さんを助けている姿は、物語と現場がリンクするような、ガチな連帯感! なかなか心温かくなる映画です。(映画ライター=斎藤 香)

『さや侍』

2011年6月11日より全国にて公開

監督&脚本:松本人志

出演:野見隆明、熊田聖亜、板尾創路、柄本時生、りょう、ROLLY、腹筋善之介、伊武雅刀、國村隼ほか

配給:松竹

(C) 2011「さや侍」製作委員会 製作年

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ライタープロフィール(http://bit.ly/hlZYAr

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