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【連載第3回】漫画『ウヒョッ! 東京都北区赤羽』の作者・清野とおるさんと赤羽の飲み屋を開拓してみたら

2015年2月6日

akabane3
~前回までのあらすじ~
『ウヒョッ! 東京都北区赤羽』の作者・清野とおるさんと赤羽の新しいお店に潜入してみる
という企画。しかし、どうにも愛想と目に光のない独特のテンションの清野氏にうまく入り込めない記者(私)。幸福地蔵でのお参りを終え、高架下にある一軒の居酒屋へ。そこで「ヨシコさん」という80歳のおばあちゃんと出会い、怒とうの勢いで身の上話を延々と聞かされることに……。
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ヨシコさんがあまりに間髪入れずに話し続けるため、せっかくの料理も味わってる余裕がない私。しかし、

清野:「あ、焼き鳥おいしいですよ? 次、お刺身頼みましょう」

いつのまにか注文したものをたいらげている清野さん。さすがいくつもの赤羽の修羅場をかいくぐってきた猛者ともなるとこうですよ。もたもたと焼き鳥や刺身を口にする私をよそに、まだまだヨシコさんのお話は続きます

【ヨシコおばあちゃん、オレオレ詐欺に遭う】

とにかく、強烈すぎるおばあちゃん。けれど、清野さんも私もこの「ヨシコさん」がかわいらしくて、気づけばすっかり好きになっていました。

(初めて入った店で、初めて会ったおばあちゃんとこんなふうに知り合いになれるなんて、これも何かの縁。そういえば、私のおばあちゃんもちょうどヨシコさんと同じぐらいの歳だっけ……)

自分の祖母とヨシコさんを重ね合わせていたところ、ここでヨシコさんから非常にショッキングな打ち明け話が! 

ヨシコさん:「一昨年前に1000万円ダマし取られてねぇ
清野&私:「!!!!」
私:「(かわいそう……)」
清野:「その話、話せる範囲内で聞かせてもらえませんか?

なんでもある日、孫の上司を名乗る男性から家に電話がかかってきて、「おたくの孫が1000万円の入ったカバンを電車に置き忘れてしまった。現金をすぐに用意しなければ会社に多大な損失が出る」と言われたそう。孫かわいさにヨシコさんは、家にやってきた男に老後の貯金1000万円を現金で渡してしまう。

「領収証のひとつやふたつないのかって聞いたら、男はないって言うんだよ! もうアッタマ来てサ、言ってやったよ。ここで受け取ったと文書で書けって。で、書かせたけど、詐欺だったってわかってね。あとで警察にその紙を持ってったけど、なんの役にも立たないって……。だから今は老後の貯金はスッカラカン。年金だけで暮らしてるあわれな身分サ」

(……なんてひきょうなことを!! 孫をかわいく思う気持ちにつけこみ判断力が鈍っているお年寄りに詐欺を働くなんて! ひどすぎる、そんなの悲しすぎるよ……!)

私はもうさっきからヨシコさんと自分の祖母とを重ね合わせてしまっていて、不覚にも泣けてきた。久々に飲んだお酒の酔いも手伝い、ティッシュでズビズビと鼻をかみながら、涙がこぼれて仕方がなかった。清野さんがヨシコさんに「彼女ね、自分のおばあちゃんと重ね合わせて泣いてるんですって」と教えているのが見える。

おばあちゃん、次のお休みには会いにいくからね……。
おばあちゃん……おばあちゃん……おばあ……

次の瞬間、信じられないことに、清野さんが私の耳元でこんな言葉を放ったのだ! 

清野:「ヨシコさん、完全に落ちましたね

えええーーーーっ、この人、今「落ちた」って言った! 私の涙でヨシコさんが落ちたって、どういう意味ですかそれ!!!!

清野:「できれば僕が泣いて落としたかったけど、涙、出ませんでした……

【シュールすぎる店内】

さらにこの場には忘れちゃならない人がもうひとりいたのです。ヨシコさんの他にいたお客のおじいちゃん。この方がまたミステリアスすぎる存在で。

私と清野さん側から見ると、ヨシコさんの後方に彼は座っていたんですが、ヨシコさんがしゃべるたびに手を振ったりモゴモゴ言葉にならない何かを発したりしているのです。ヨシコさんをけなしているのか同調しているのかすらわからない。しかも、着ているジャンパーには「SABURO KITAJIMA」のロゴ入り

舞台女優のように切々と自分の人生を語るヨシコさんの後ろで、チラチラと目に入る敵か味方かわからない謎のじいさんと「SABURO KITAJIMA」の文字……もう私の日常からは理解不能なシュールすぎる光景がそこには広がっていたのでした。

【1000万円の詐欺と2000円のビール代】

ヨシコさんのお話も延々と聴き続け、さすがにもう店を出ようとなった私たち。するとなんと清野さん、ヨシコさんのビール代を自分のぶんと一緒に支払って退席! お店を出ると、

「オレオレ詐欺の被害額ってね、こんなにニュースになっててもまだまだ増えてるらしいですよ。これって僕、やさしさの数字だと思うんですよ。日本には誰かのためにこれだけお金を出せる人がいるっていう。ヨシコさんは1000万円だまし取られたけど、そのやさしさのおかげでさっきのビール代2000円を出してくれる人がいた。1000万円分の2000円ぽっち、ですけどね」

と話す清野さん。なんだかホッコリしてしまう私。

(さっきは「落ちる」とかなんとか言ってた気がしたけど、清野さんもちょっとぐらいは優しいところがあるじゃないか。ああ、今日はいい取材になったなあ……)

そんなふうに思って歩き始めたところ……ガチャッ! 店のドアが開いて、なんとヨシコおばあちゃん、再登場!

「お兄さん……あんた、私のビール代、払ってくれたって……! いい人すぎるよぉーーーっ! ありがとね、ありがとうねーーーーーーーっ!!」

と顔をクシャクシャにして叫んでいる。よほど感動したのはわかりますが、つかまったら今度こそひと晩中絡まれる! それは勘弁……。

清野:「逃げましょう!

えーと、その場からすたこらさっさと逃げました

【やっぱり落ち着くチェーン店】

あまりに疲労困憊(こんぱい)した私を見て、駅近くの某大衆向け居酒屋チェーンに案内してくれた清野さん。

私:「なんだかいろいろと強烈でしたね……」
清野:「いや、でもすごいですよ! 今日は久しぶりに当たりでした。確実に“赤羽の神”が舞い降りましたね。ああいうのは起きろと思っても起きないんです。めったにないことなんですよ」
私:「そ、そうですか、なら何よりです……」

目を輝かせ、今日初めての笑顔を見せる清野さん。興奮するポイントおかしくないですか。

(……やっぱりこの方、真性の赤羽フェチなんだなぁ。赤羽という地に底知れぬ魅力を感じてて、そこで出会ういろんな人たちとのふれあいが何よりも好きでしかたがない。その情熱があるからこそ、あんなに漫画がおもしろくなるんだろうな)

なんて思っていたら。最後の最後に今宵いちばんの衝撃発言いただきました。

清野:「あー、やっぱチェーン店、落ち着くわー
私:「えっ……」

そんな清野とおるさんの新刊は1月28日に『ウヒョッ! 東京都北区赤羽』4巻、『清野とおるのデス散歩』、『Love&Peace~清野とおるのフツウの日々~』1巻の3冊が同時刊行されたばかり! 今回のレポートで赤羽に興味がわいた方はぜひ『ウヒョッ! 東京都北区赤羽』を、清野さんのダークサイドに惹かれた方は『ウヒョッ!…』以外の著書も読んでみてくださいね。

参照元:清野のブログ『山田孝之の東京都北区赤羽』
取材・撮影・執筆=鷺ノ宮やよい (c) Pouch

▼このあと、『ウヒョッ! 東京都北区赤羽』読者にはおなじみの赤澤さんも合流。ニコニコして気さくな赤澤さんと、あいかわらず目に光がない清野さんでしたが、それはそれで仲良さそうでした

▼最後にサインいただきました。清野さん、このたびはありがとうございました!

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