[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップするのは時代劇『駆込み女と駆出し男』(2015年5月16日公開)です。お若い方は時代劇、あまりなじみはないかもしれません。実は記者、全然若くないけど、時代劇は少々苦手だったのです。が、しかし、これはおもしろかった! 大いに楽しませていただきました。
妻が家出をして駆け込み寺へ。そこから始まる人間模様が、それはそれは楽しく切なくスリリングなのです。
【物語】
江戸時代後期、鎌倉の東慶寺は、離縁を求める女性が駆け込んでくる幕府公認の “駆け込み寺” でした。駆け込み女は、まず御用宿で聞き取り調査をされ、別れの事情を語ります。そして東慶寺へと入山するのです。
ある日、御用宿に飛び込んできた二人の女がいました。ひとりはお吟(満島ひかり)もうひとりは鉄練り職人のじょご(戸田恵梨香)。お吟は自分を囲っていた男(堤真一)が人を殺めてきたのではないかと恐れ、じょごは夫の浮気と暴力に耐えかねて……。そんな女たちの話に耳を傾けるのは御用宿の源兵衛(樹木希林)。
しかし、男たちはそう簡単に離縁にOKしてくれるはずがありません。その御用宿に居候をしているのは作家に憧れる見習い医者の信次郎(大泉洋)。彼は駆け込み寺にやってきた女性たちに関わることになるのですが……。
【本作と映画『ラスト サムライ』の繋がり】
『駆込み女と駆出し男』の原田眞人監督は、役者として『ラスト サムライ』に出演したときに書寫山圓教寺と出逢い、その壮大な空間に圧倒されたそうです。でも『ラスト サムライ』ではその魅力を表現できていなかったと感じ、原田監督はそのときから「いつかここで自分の手で、日本の時代劇の歴史を継承するような映画を作るのだ」と心に誓っていたとのこと。
その後、井上ひさし原作「東慶寺花だより」の映画化の打診があり、原田監督は「『ラスト サムライ』に繋がった!」と喜んだのだとか。そんな熱い想いを胸に取り込んだのが『駆込み女と駆出し男』ですから、面白くないわけないでしょう! 本作では、監督が圧倒されたという書寫山圓教寺でもロケが行われたそうです。
【重さと軽やかさのバランス感覚】
結婚生活がうまくいかず、命からがら駆け込み寺へ逃げて来る女たちですから、その事情はドロドロです。でもこの映画はその女たちが抱える重い荷物を描きつつも、深刻だけどなぜか軽やか。それは御用宿のボス、樹木希林や、居候・大泉洋の魅力に頼ることが大きいかと。大泉さんは正直いつもと変わらず、お江戸に来ても大泉洋です! たぶんみんなが見たい、よくしゃべる楽しい大泉さんがここにいます。でもそれが安心感に繋がっているのです。
樹木希林さんは駆け込み女たちをドンと受け止める器の大きさが魅力。彼女が御用宿にいるだけで、離婚を突きつけられた男たちが殴り込みのようにやってきても、なんとかしてくれると思わせますからね。加えて東慶寺を守る尼である法秀尼(陽月華)! 彼女は規律を守らない女たちを一声で黙らせます。凛とした美しさと強さに、記者は完全にKOされましたよ。
【縁切りの裏のドラマ】
この映画には離婚を求める女たちの想いと縁を切られた男たちの想いと、彼等を取り巻く人々の想いがしっかりと手に取るようにわかるからこそ、感動があります。縁を切られて怒りにまかせて凶暴化する男もいれば、反省して人生を改める者もいます。そして女性側の別れる理由に秘密がある者も……。
この気持ちの良い感動の源は何だろうと思ったら、それぞれの人物が自分の人生をしっかりと生きようとしているから。駆け込み寺にやってきたお吟もじょごも、そして居候の信次郎も新しい人間関係を築き、人生を歩みますからね。自力でよりよい人生を掴みとろうとしているからこそ、心に響くわけです。
これは江戸時代に限ったことではなく、今の時代でも大切なこと。だから時代劇だけど、スっと心に入って来て、登場人物たちの人生に身を委ねたくなるのでしょう。
執筆=斎藤 香(C)Pouch
『駆込み女と駆出し男』
2015年5月16日より、丸の内ピカデリー、TOHOシネマズ日本橋、渋谷シネパレスほか全国ロードショー
監督:原田眞人
出演:大泉洋、戸田恵梨香、満島ひかり、内山理名、陽月華、キムラ緑子、樹木希林、武田真治、堤真一ほか
(C)2015「駆込み女と駆出し男」製作委員会