[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップしたのは、イタリア・フランス・スイス・イギリス4ケ国の合作映画『グランドフィナーレ』(2016年4月16日公開)です。
マイケル・ケイン、ハーヴェイ・カイテル、ジェーン・フォンダなどの名優が共演し、人生についてしみじみと考えさせられる作品で、監督は、前作『グレート・ビューティ/追憶のローマ』でアカデミー外国映画賞を受賞したパオロ・ソレンティーノ監督。
引退した老年の世界的指揮者が、迷いながらも前に進もうとする姿を、美麗な映像と深き友情と親子愛を散りばめて描いた本作は、絶対にスクリーンで観てほしい! では、ご紹介しましょう。
【物語】
英国の女王陛下から、フィリップ殿下の誕生日に指揮をしてほしいと依頼された指揮者のフレッド(マイケル・ケイン)。依頼曲は彼の名曲「シンプル・ソング」。でも、フレッドは「引退したから」と、断ってしまいます。
彼はアルプスの高級リゾートにおり、娘のレナ(レイチェル・ワイズ)とその夫も一緒。娘の夫の父は映画監督のミック(ハーヴェイ・カイテル)で、ミックはフレッドの大親友。フレッドと同世代のミックはまだまだ現役で、新作映画のことで頭がいっぱいです。
何となく過ぎる毎日、そんな父を心配する娘の身にあるトラブルが降りかかり、そして、ミックの身にも思いもよらぬことが起こり、フレッドは……。
【人生の静かな流れを美しく描いた映画】
何しろ主要キャストはおじーちゃん、おばーちゃん世代。地味そう~と思って見たら、もうファーストシーンから胸わしづかみの美しさで圧倒されました。素晴らしいバンドのパフォーマンスに始まり、高級リゾート地の美麗な眺めが圧巻です。
主人公は80才、引退を決めて、のんびり暮らしていますが、覇気がない。まだ現役感のある親友の映画制作話に耳を傾けたり、娘に「お母さんに苦労をかけたわ」と責められたり。自身の過去を噛みしめて、静かに終わりを待っているようにさえ見えます。しかし、その彼がじわりじわりと変化していくのです。
【80歳からの人生、未来】
この映画のきっかけは「ある著名な指揮者が英国女王からの依頼を断った」という実話に、ソレンティーノ監督が興味を持ったことだそうで、そこから物語を膨らませていったのです。ソレンティーノ監督はこう語っています。
「オーケストラの指揮者が紡ぎだす、神秘的な音楽の世界に入り込んでみたかった。そして、自分にはあとどれだけの時間が残されているのだろうと考えたとき、人は未来に何を望むのかと言うことを描きたかったんだ。みんな、80才を超えた人が将来に立ち向かう姿など考えないだろう。でも80才の人が、明日に何を期待するのか……ということに、自分は興味が引かれたんだ」
確かに、主人公フレッドのように、80才の人がまだ積極的に何かをしようとするなんて、あまり想像できない。世間は、還暦あたりで現役引退的な空気を作ってしまいますからね。でも80歳でも生きていれば、人生は続くわけで、そこで何かに1歩踏み出すのもありなのです。
フレッドは、妻と娘との関係や親友に起こった出来事などをきっかけに、過去となりつつある名曲の秘密を明らかにし、再び指揮者としてのキャリアと向き合う決心をするのです。
【音楽と映像がもたらす人生賛歌】
この映画では、様々な人の人生とフレッドを向き合わせます。そしてその背後には常に音楽があります。音楽が流れていなくても、なんとなく音楽を感じるのです。普段ならBGM的に聞き流すような劇中音楽が、フレッドの人生と重なり合うように胸に響いて、それが最後に「シンプル・ソング」として結実するとき、感動の波が押し寄せてきます……これはすごい、聴き惚れます!
また映像も美しくて、舞台となる場所は楽園みたいな天国みたいな、現実だけど現実じゃないような……。監督のロケ地のチョイス、その場所を映し出すセンス、何もかもがとにかく美麗で目が釘付けです。天才監督なんですね。
役者たちも素晴らしく、誰もが名演! ソレンティーノ監督の演出、役者の名演、すべてが極上のまさに神映画!
この映画はぜひスクリーンで観てほしい。大きなスクリーンで、美しい人生賛歌に酔ってください。
執筆=斎藤 香(c)Pouch
『グランドフィナーレ』
監督:パオロ・ソレンティーノ
出演:マイケル・ケイン、ハーヴェイ・カイテル、レイチェル・ワイズ、ポール・ダノ、ジェーン・フォンダほか
(C)2015 INDIGO FILM, BARBARY FILMS, PATHE PRODUCTION, FRANCE 2 CINEMA, NUMBER 9 FILMS, C – FILMS, FILM4