世の中には数多くの幼稚園がありますが、埼玉県八潮市にある「小倉あさひ幼稚園」の園舎はユニークさで言えばちょっと群を抜いているかもしれません。
だって使われているのは船舶コンテナ! そう、貨物輸送のために港などに置かれている、あのどでかい箱型をした倉庫のような物体。あれをそのまま幼稚園の園舎として使っちゃっているんです。
いったい何をどう考えたら、船舶コンテナを幼稚園に使おうってなるのか……。
あまりにぶっ飛んだアイデアに思わず取材を申し出た私(記者)。実はそこには子どもたちに伝えたい「ある思い」が込められていました。
【船舶コンテナの園舎を提案したところ……】
この驚きの園舎をつくったのは、幼児施設に特化した建築設計事務所として国内外から高い評価を受けている「日比野設計+幼児の城」。幼児施設統括責任者である日比野拓さんにお話を聞いてみたところ、
「幼稚園側に船舶コンテナを園舎に使うというアイデアは最初にこちらから提案したのですが、オーナーはビックリされていました。そして当然ですが、コンテナで幼稚園を作るなんて、どんな形になるかイメージがつきにくかったようです」
とのこと。それはそうでしょう! 創立50周年をむかえる小倉あさひ幼稚園は耐震性の不足から早急に園舎のリフォームが求められていたそうですが、だからといって「船舶コンテナを園舎にしましょう!」と提案されたら……そりゃあ私が園長でも「えっ?」ってなります……!!
【実は地球環境に配慮した幼稚園】
しかしこれ、単なる突飛な思いつきじゃないのがスゴいところ。コンテナを使うことで、工期の短縮や簡略化がはかれ、CO2削減につながります。
そして、そのままの形で移動可能なこと、リユースできること、使いやすく変化させることができる(可変性がある)ことなどから、本質的にサスティナブルな幼稚園になるというコンセプトがあったのです。
資源やエネルギーに配慮しながら、地域や環境と調和し、将来的に人々の生活の質をより良くする建物づくりを指す言葉に「サスティナブル建築」というものがありますが、この幼稚園がまさにそれ。
つまりひとことで言うと、「地球環境配慮型の幼稚園」になっているんです。
【身近な建物からエコについて知ることができる】
幼稚園の大きな特徴は教育施設であること。どんなことを学べるかは各幼稚園でことなりますが、建築の観点から環境の大切さについて学ぶというのも、立派な教育のひとつといえるでしょう。
太陽光発電や風力発電といった機械的装置でエコを図るのではなく、ここでは園舎という身近なところから子どもたちはエコについて知ることができるというわけです。
【無骨な外観に近隣住民も興味津々】
さて、こちらの建物のデザインですが、コンテナが積木のように並んだ外観はなんとも無骨。けれども、内部からは木のぬくもりが感じられて、その内外の対比がなんとも面白い造りになっています。
園舎は複数のコンテナを合わせて作られており、たとえば教室には大型コンテナを3つ、職員室のある棟は中型コンテナ14個を上限として使っているそう。規格品であるコンテナをこのように組み合わせて、必要な機能と大きさを確保するのは苦労したといいますが、完成後の評判は上々の様子。
近隣の人たちからは「最初は一体何ができるんだと思ったけれど、コンテナでこんなステキな園舎ができるなんて感心した」という言葉も聞かれるそうです。
【子どもたちが成長できる環境を】
現在、日比野さんの事務所では幼児施設のプロジェクトが国内外で進行中ですが、作る際のキーワードに「子どもが強く、たくましく、賢く育つために、さまざまな経験ができること」を掲げています。
「大人の都合で『それは危ないからダメ』と言って安全ばかりに気をつかっていては、子供たちが挑戦する気持ちを奪うことになりかねません。そうした意味で、常に子供たちの成長をテーマに園舎をつくっていきたいと思っています」
と話す日比野さん。さまざまな制約があるなかで、今度はどんなアイデアで新しい幼稚園や保育園を作り出すのか。「日比野設計+幼児の城」の作品に今後も注目が集まりそうです。
そして、未来ある子どもたちが常に成長できる環境を作っていくこと。これは園舎の建設とは関係なく、おとなである私たち全員が考えなくてはいけない問題でもあります。都心部における最近の保育園問題などをニュースなどで目にするにつけ、なおさらそのように感じられて仕方がありません。
参照元:日比野設計+幼児の城
取材・執筆=鷺ノ宮やよい (c) Pouch
▼船舶コンテナを使うというユニークなアイデアから生まれた園舎
▼保育室と職員室は中の様子がわかるよう外に向けて配置
▼外観は無骨ですが、中は木のぬくもりが感じられるつくりに
▼園庭にあったケヤキの木を使って作ったサイン。工事のため伐採を避けられなかった木を再利用