[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップするのは、ニューヨークを舞台にした若者と中年、2組のカップルを描いたシニカルコメディ映画『ヤング・アダルト・ニューヨーク』(2016年7月22日公開)です。
日本の歌番組でも、やたらと昭和歌謡が取り上げられ、ちょっとレトロがブームになりつつある今。70、80年代に憧れる若いカップルと、時代のスピードに追い付かなくちゃと焦る中年カップルが出会って交流したら……と言うのが『ヤング・アダルト・ニューヨーク』の世界です。
『イカとクジラ』『フランシス・ハ』のノア・バームバック監督作ですから、ひと筋縄ではいきませんよ~。
【物語】
映画監督のジョシュ(ベン・スティラー)と、映画プロデューサーの妻コーネリアス(ナオミ・ワッツ)はミドルエイジの夫婦。子供はいないが、仕事も私生活もいまいちな毎日に不満を抱えています。
そんなときジョシュが講師をしているアートスクールの生徒ジェイミー(アダム・ドライバー)とダービー(アマンダ・サイフリッド)が、彼に声をかけてきます。
監督としてジョシュを尊敬していると熱く語るジェイミー。彼はSNSを駆使した映画を制作する企画を立てており、ジョシュは彼に協力することにします。
撮影はうまく進んでいきますが、やがてジョシュの心に不安が広がっていくのです。それは……。
【SNSに必死のアダルト&レトロに夢中のヤング】
『ヤング・アダルト・ニューヨーク』は、若い人にとっては未来に向けての警鐘であり、アラフォーにとっては「ヤバイ」という危機感を抱く映画かもしれません。
テクノロジーは進化していき、若い人ほどそれに対応してスピーディに吸収していきますが、アラフォー過ぎると学びのスピードは退化していくもんです。
ジョシュとコーネリアスの夫婦はまさにそれ! でも、彼らはほかの同世代よりも感覚は若いと思ってます。「SNSだって駆使しているぜ!」って、もうその必死さがヤバイんですが、それに気付いていないのです。
それとは反対に、若いジェイミーたちは自分たちの感性を大切にしています。LPレコード、VHSテープ、手作り家具など、流行に左右されず、レトロな物に刺激を受けて、生活に取りこんでいます。
アラフォーのジョシュたちにとっては、若き日に使い倒したもの、古めかしいものなのに、彼らが使っていると逆にフレッシュにオシャレに見えてくる。「この二人いいじゃん!」と彼らのセンスに刺激を受けて、ジェイミーたちのライフスタイルにのめりこんでいくのですが、野心家の若いカップルは、勘の鈍った中年男女を惹きつけておいて痛烈なパンチをあびせるんですよ。
その内容はネタバレになるので控えますが、これは誰にでも起こることかもしれない。他者に感化されすぎると自分を見失い、焦っている人ほど落ちいりやすい罠とも言えるからです。
【ノア・バームバック監督の実感が映画に】
『イカとクジラ』でデビューしたとき、新しい映画を創りだす気鋭の監督として話題になったバームバック監督ですが、この映画を企画したのは、監督自身が若き前衛アーティストを卒業して体制側にいると実感し、それに対峙する必要性を感じたからだそうです。
監督はこう語っています。
「2つの違うカップルについての映画を撮りたいと思っていたんだ。なぜなら世代によってエネルギーは異なり、それに伴う原動力も違う。そこが面白いから、作品の中で掘り下げたいと思ったんだ。僕自身がどこにいても最年少じゃない世代になったので、2つの世代を描くには今がちょうどよかったとも言えるね」
この映画のジョシュとジェイミーの違いについて、ジョシュ役ベン・スティラーはこう語っています。
「ジョシュは最初、ジェイミーになりたいと考えたと思うんだ。でもジェイミーの創作の姿勢は、芸術作品を作る為に他人から知恵を拝借して創造するという、この世代特有の考えに成り立っている。けれども、ジョシュは自分自身の作品で成功したいから、ジェイミーのやり方と折り合いがつけられなくなっていくんだ」
ジェイミー役のアダム・ドライバーは
「ジェイミーはモラルが曖昧で、何でも器用にできそうに見えるけど、内心は本物に見せようと必死なんだ。彼自身もモラルの境界線上で、ジョシュのつま先を踏んでしまうなんて考えなかったと思うよ」
世代の違いは、創作活動のプロセスや向き合い方、モラルにも影響を与えているんだなというのが、この映画を見ているとよくわかります。
ちなみに、アダム・ドライバーは『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』に登場したカイロ・レンを演じた役者です。『SW』のときとは全然違うアート系の若者を好演しているところも注目です!
【老いを認めてそこから始まる】
ジョシュとジェイミーの関係は、年齢も違う、個性も全く違う者同士が、お互いにないものにひかれて近づき、でも結局、その違いをまざまさと知る事になる物語です。
若く、これから成功したい若者はグイグイ来て、崖っぷちの中年は焦りますが、長い目で見ると、ジョシュは自分が本当にやるべきことに気付いたんじゃないかなと思ったりして。
いろんな世代の人がその世代ならではの感想を持ちそうだし、レトロなファッションやインテリアも都会的なライフスタイルで見応えあり。オシャレな雰囲気の中にスパイスの効いた物語を宿した『ヤング・アダルト・ニューヨーク』。ぜひ、友だちと感想を語り合ってくださいね!
執筆=斎藤 香 (C) Pouch
『ヤング・アダルト・ニューヨーク』
(2016年7月22日より、TOHOシネマズ みゆき座ほか全国順次ロードショー)
監督:ノア・バームバック
出演:ベン・スティラー、ナオミ・ワッツ、アダム・ドライヴァー、アマンダ・サイフリッド、チャールズ・グローディン、アダム・ホロヴィッツほか
(C)2014 InterActiveCorp Films, LLC.