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隠れキリシタンを演じる窪塚洋介の強烈な存在感は見逃せない…話題作『沈黙 -サイレンス-』の最後に明かされる沈黙の意味とは?【最新シネマ批評】

2017年1月20日

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【公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、マーティン・スコセッシ監督の最新作『沈黙 -サイレンス-』(2017年1月21日公開)です。遠藤周作の原作を映画化、日本人キャストも多く出演したことが話題になっていますね! 

神、信仰、人間の脆さなどをえぐるように描き、確かに重いけれど、いろいろ考えさせられる傑作だと思います。では物語から。

【物語】

江戸時代初期。長崎奉行のキリシタン弾圧により、棄教をした宣教師フェレイラ(リーアム・ニーソン)。フェレイラを追ってきた弟子のロドリゴ(アンドリュー・ガーフィールド)とガルペ(アダム・ドライバー)は、マカオでキチジロー(窪塚洋介)と出逢い、彼と長崎へと渡ります。

隠れキリシタンのモキチ(塚本晋也)らはロドリゴたちを歓迎しますが、奉行に見つかっては大変だと二人を匿います。しかし、裏切り者により、ロドリゴたちは長崎奉行に捕えられ、井上筑後守(イッセー尾形)に棄教を迫られるのです。

「キリスト教を棄てないと、信者が苦しみながら犠牲になっていく。お前たちのせいだ」と迫られ、ロドリゴとガルペは信仰と命の狭間で苦しむことに……。

【今だからこそ見たい、日本的なハリウッド映画】

江戸時代のキリシタン弾圧の映画と聞いて、しり込みする人もいるかもしれません。「クリスチャンじゃないし」と思う人もいるかもしれないけど、これは追い詰められた人間を深く描いた作品であり、今を描いた作品でもあるのです。

上の立場の者が弱者を抑えつけて従わせ、それに背いたら命を奪うという残酷な行為は今も世界中で行われています。様々な進化があっても、人間の本質は何も変わっていないのです。歴史は繰り返されると言うのは、変化がない証かもしれません。

また、神とはなんだろうと考えさせられます。宣教師のロドリゴはキリストの伝道者であっても人間です。苦しみ抜いて死んでいくクリスチャンたちを繰り返し目にしたロドリゴが、信者の命か信仰心を取るか、悩み抜いて神に答えを求めても、神は何も言いません。まさに沈黙……。

【スコセッシ監督の映画で輝くイッセー尾形】

映画関係者の間では、スコセッシ監督が遠藤周作の「沈黙」の映画化を企画しているという話は、かなり前から囁かれていました。スコセッシ監督が別な作品で来日するたびに、日本人俳優のオーディションをしているという噂も。それゆえに、この映画の完成は映画ファンとしても喜びであります!

中でも強烈な印象を残すのは、窪塚洋介、イッセー尾形。窪塚氏は、ロドリゴたちを日本に連れてくる隠れキリシタンのキチジロー。この映画に登場する隠れキリシタンの中でも、生きることに必死な彼は、ある意味いちばん人間くさい役です。

彼が繰り返しロドリゴに求める「罪を認めて赦しを得る」という行為とはなんだろうと考えさせられます。巨匠の作品でもザ・窪塚洋介であり続けた、貫いた演技は一見の価値ありです。

イッセー氏は、この映画でいちばんの悪役・井上筑後守で、佇まいがユニーク。イッセー氏の演技プランを監督が気に入って実現した、イッセー尾形自身が創り上げた井上です。井上は、宣教師にとって一番苦しい行いは何かがわかっているので、暴力ではなく言葉で追い詰めていきます。

また、彼はクリスチャンに棄教について考える時間を与えるのですが、その時間が彼らにとっては苦しみになるんですよねえ。アメリカの批評家の間でも、イッセー氏の演技は一番評価が高いです。

【何を信じるのかは自分で決める】

本作はキリスト教信者が見る場合と、そうではない者が見る場合とでは、解釈が異なるかもしれません。最後に明かされる沈黙の意味、フェレイラが棄教した理由と、ロドリゴの決断。途中まで、信仰心は諸刃の剣かなと思っていたんですが、最後にひっくり返された感がありました。

でもそれは、私がクリスチャンじゃないからかもしれない。クリスチャンの方が見れば、その答えはわかっていることなのかも? でも何を信じるのかはもう自分の心の中で、自分で決めればいいかと思ったりもしました。

そんな風にいろいろ考えさせられる映画『沈黙 -サイレンス-』。2時間45分の長尺ですが、見応え十分。誰かと見て語り合ってもいいし、ひとりで見て自分自身に問いかけてもいいのでは? 娯楽や気晴らしといった要素はゼロな本作ですが、ミーハー的な見方として、様々な俳優たちが小さな役で出演しているのを見つけるのも楽しいかも。片桐はいり、青木崇高、エクザイルのAKIRA、映画監督のSABUなども出演していますよ。

執筆=斎藤 香(c)Pouch

『沈黙 -サイレンス-』
(2017年1月21日より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー)
監督:マーティン・スコセッシ
出演:アンドリュー・ガーフィールド、アダム・ドライヴァー、浅野忠信、キアラン・ハインズ、窪塚洋介、笈田ヨシ、塚本晋也、イッセー尾形、小松菜奈、加瀬亮、リーアム・ニーソンほか
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▼映画『沈黙 -サイレンス-』予告編

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