【最新シネマ批評】
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップするのは、フランス映画『おとなの恋の測り方』(2017年6月17日公開)です。アカデミー賞俳優の実力派ジャン・デュジャルダン(『アーティスト』)主演作で、身長182センチのデュジャルダンがなんと140センチ未満の小柄な男を演じるというラブコメディ。
これがとっても心に響く良作なんですよ。まず物語から簡単にご紹介しましょう。
【物語】
弁護士のディアーヌ(ヴィルジニー・エフィラ)は、レストランに忘れた携帯電話を拾ってくれた男性アレクサンドル(ジャン・デュジャルダン)から「会って返したい」と連絡を受けます。
ところが会いに行ってビックリ。彼は身長が140センチにも満たない小柄な男性だったのです。
しかし、ディアーヌは、アレクサンドルのユーモアのセンスやスマートなエスコートに心地よさを感じ、楽しい時間を過ごします。やがて二人は付き合うように。
でも、どこへいっても周囲の人に彼の身長のことを囁かれ、家族に反対され、元夫に侮辱されたりするうちに、彼女は「周りの目を気にすることなく、彼と付き合っていけるだろうか」と、不安になっていくのです。
【世間体を気にする恋】
フランスの恋愛映画は、ヒロインが自由奔放に恋を楽しんだり、情熱的に命懸けの恋をしたり、絶望的に悲恋だったりという強烈なイメージがあるのですが、本作はとても軽やか! 80~90年代のキャメロン・ディアスが出演していたラブコメや、『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズみたいにチャーミングです。
それはヒロインのディアーヌのキャラクターの影響大かもしれません。彼女は、恋をすると周りが見えなくなる恋愛突っ走り系ではありません。実に等身大。人とはちょっと違う様子の男性と付き合っていることをとても気にしています。周囲にどう見られているのか……つまり世間体が気になるタイプなのです。
アレクサンドルは、会話は楽しい、エスコート上手、笑顔が素敵な人なのですが、彼女よりもとっても小さい。レストランで椅子に座ると足が床につかなくてブラブラしちゃうくらいなんですよ。
周囲の人に彼の身長のことをアレコレ言われて、凹むディアーヌ。「そんなことで差別してはいけない」というのは正論ですが、人の気持ちはそうカンタンにいきません。だって気になっちゃうんだもの仕方がないじゃないですか。
「アンタの気持ちわかる!」と彼女の肩をポンポン叩きたくなりましたよ。同時に「さあ、あなたならどうする?」と、映画を見ながら問われているような気もしました。
【男の価値はどこで決まる?】
しかし、アレクサンドル自身も身長にはコンプレックスがあり、自分の背の小ささを笑う他人がいることはわかっているし、心のない言葉に傷ついてもいます。でも彼は、どうしようもないことにはこだわらない強さもある。体は小さいけど、人間的に大きくて素晴らしい人なのです。
だからこそ、ディアーヌは心が揺れるんですね。「自分を大切にしてくれる素敵な人なのに、身長が低いことくらいで関係を終わりにしてもいいのか」と。太っている人は痩せることができるけど、背が低いのってどうしようもないじゃないですか。でも周囲の言葉や態度に振り回されて彼女がとても悩んでしまうのは、ディアーヌはそれだけ彼のことが好きだからです。
二人の恋がどうなるのかは見てのお楽しみですが、結局、男の価値は何で決まると思いますか? 一番大切なのは「一緒にいて幸福かどうか」ではないでしょうか。何が幸福かは人それぞれ。つまり、男の価値を決めるのはあなたの気持ち次第なんです。
【182㎝の主演俳優を小柄な男性にしたマジック!】
ちなみに182㎝のデュジャルダンは、小柄な男になるためにグリーンバックでの特殊撮影にも臨んだそうです。
デュジャルダンは「共演者が側にいない中で撮影するのは、少し心細かったよ。でも自分のキャリアにとって未開の地に足を踏み入れることができたのは嬉しかった」と語っていたそうですが、リアルにありそうな物語ながら、ちょっとおとぎ話風でもあるのは、そんな映画のマジックのおかげかもしれませんね。
執筆=斎藤 香 (c) Pouch
『おとなの恋の測り方』
(2017年6月17日より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー)
監督:ローラン・ティラール
出演:ジャン・デュジャルダン、ヴィルジニー・エフィラ、セドリック・カーン、ステファニー・パパニヤン、セザール・ドンボワほか
(C)2016 VVZ PRODUCTION-GAUMONT-M6 FILMS