Pouch[ポーチ]

映画『勝手にふるえてろ』松岡茉優が演じる妄想女子が超リアル / 脳内恋愛と現実の間で揺れる姿が刺さります【最新シネマ批評】

2017年12月22日


【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が最新映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、レビューをします。

今回ピックアップするのは、女子必見の映画『勝手にふるえてろ』(2017年12月23日公開)です。この映画は特に恋愛が苦手、オクテ、人間関係ちょっと不器用、という女性に見てほしい。「ちょっと刺さるんですけど~」と思える傑作なのです。

原作は芥川賞作家・綿矢りさの同名小説。監督は大九明子(おおくあきこ)、主演はドラマ、映画で大活躍中の女優・松岡茉優です。

では物語からサクっといってみましょう。

【物語】

OLのヨシカ(松岡茉優)には二人の男がいる。本命は中学のときからずっと片思いしているイチ(北村匠海)。好き過ぎて「結婚を約束しても、イチが心変わりしたらどうしよう」と、付き合ってもないのに妄想が爆走しています。

二番手は二(渡辺大知)。同じ会社に勤める同期で、ヨシカに告白してきた男。嬉しいけれど、好みじゃない。でも「二番手と結婚した方が気楽かな」とか思ったりしています。

そんなヨシカでしたが、あるトラブルがきっかけで「死ぬ前にもう一度、イチに会いたい」と思い、彼女は同窓会を計画。イチと再会できるのですが……。

【10年前から片思いの相手と向き合ったら……】

とにかくヨシカのキャラクターが最高! 彼女の場合「片思いは辛い……」ではなく、自分に都合のいいように妄想し、思い切り楽しむハッピー片思い。恋愛上手な女性から見れば、思い出の中だけで生きているイタイ女にも見えるかもしれないが、彼女の中でイチは中学生のときに「俺を見て」と言ってくれたイチのままなのです。

で、そのイチと再会したら……かっこいいイチのまま! ゆえに、ますます「好き」という気持ちが溢れるヨシカ。でもやはり昔と同じように、イチとヨシカの間には壁があり、乗り越えようと努力してもなかなか壁を乗り越えられないのです。

【初めて告白してきた二番手の男。でも扱いに困る~】

相手が誰であろうと告白されたら、ちょっとうれしいものです。ヨシカはニに告白されて一瞬有頂天になりますが、ニはイチを超えられない。そりゃそうですよ、ヨシカはイチを完全に理想化していますから。

でもニは現実に目の前にいる男で、ちょっとウザイくらいグイグイ来ます。このニのウザさがリアル! ヨシカの心にはイチがいて、可能性を信じているからニと向き合えない。だからニの愛情を重く感じてしまうのですね。

また渡辺大知さん演じるニのウザさが絶妙なので、余計にヨシカの気持ちがわかるのです。

【妄想の裏に存在するリアル】

映画『勝手にふるえてろ』は、ヨシカが脳内恋愛を経て本当の恋愛と向き合う姿を描いています。本作の凄いところは、ヨシカに告白したニが、最初はウザかったのに、後半、少しずついい男に見えてくる描写です。「こんなにヨシカのこと考えてくれている」「とても誠実で、この人なら幸せにしてくれるかも」そう思わせる男性にだんだん見えてくるのです。観客にそう思わせる視点は、そのままヨシカの視点にもなっているのではないかと。

脳内恋愛の魔法が溶けて、そこから本当の恋が始まる……という展開が凄くいいのです。

また、親友の来留美(石橋杏奈)との関係もいい味出しています。来留美は恋愛上手な大人で、とてもいい人なのですが、恋愛経験のないことがコンプレックスのヨシカは、親友の親切なアドバイスに対して「上から目線で自分を憐れんでいる」とヒガミ根性を炸裂させるのです。

こういう女子同士のいがみあいもリアル。「ああ、女同士って、こういうことあるよな」と思わずにいられないのですよ。

【グサグサ刺さったらあなたはヨシカ】

でも何よりこの映画を傑作に押し上げたのは、ヨシカを演じた松岡茉優さんですね。本人と役がゴッチャになるくらいヨシカでした。彼女が演じたからこそ、ヨシカはただの妄想癖のイタイ女子にならなかった。ちゃんと共感を生むヨシカになったのです。

そして、やはり女性監督が演出したのも大きかったかも。大九監督がヨシカの可愛さをわかっていたし、ヨシカの妄想癖への理解があったからこその映画だと思います。

全ての女性の共感を得るかどうかはわからないけど、この映画が心にグサグサ刺さったらあなたはヨシカ。でももしそうだったら、彼女と同じように、意外と身近に良き恋の芽があるかもしれませんよ。

執筆=斎藤 香 (C) Pouch





『勝手にふるえてろ』
(2017年12月23日より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー)
監督:大九明子
出演:松岡茉優、渡辺大知、石橋杏奈、北村匠海、趣里、前野朋哉、池田鉄洋、古舘寛治、片桐はいりほか
(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会

▼映画『勝手にふるえてろ』予告編

モバイルバージョンを終了