【最新公開シネマ批評】映画ライター斎藤香が公開作のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。
今回ピックアップするのは『嘘を愛する女』(2018年1月20日より公開)です。長澤まさみと高橋一生共演のミステリアスな恋愛映画。同棲していた恋人の名前も経歴もすべて嘘だった! という謎めいたストーリーで、この謎の恋人を演じるのが高橋一生さんなのです! 実にそそられますね。
しかし、この映画は好きな人、苦手な人、まっぷたつに分かれるようです。では、まずは物語からいってみましょう。
【物語】
キャリアウーマンの由加利(長澤まさみ)は、5年間同棲している研究医の恋人・桔平(高橋一生)がいます。
ある日、彼がくも膜下出血で倒れ、意識不明に。同時に彼女は警察から、桔平の名前も医師免許証も運転免許証もすべて偽造であることを知らされます。
悲しみと怒りに震える由加利は、探偵(吉田鋼太郎)を雇って、彼の過去を知る旅に出るのです。
↓ ここからネタバレあり
【気が強く好感度が低いヒロイン?】
愛する人がくも膜下出血で倒れ、おまけに名前も経歴もすべて嘘だった。でも彼は意識不明で真実を問うこともできないという状況を聞けば、ヒロインに同情したくなるでしょう。
しかし、由加利は「どうして?」とメソメソ泣くような女ではありません。彼の真実を必死に探す彼女は「なぜ私をだましたのか。その理由を知りたい」と思っているように見えます。なぜなら、このヒロインは実に性格がキツイのです。
本作は、そんな由加利のキャラクターがよくわかるように、桔平や同僚とのやり取りから由加利という人物がわかるように描いています。
桔平との結婚を意識して、自分の母親と合わせる段取りも彼の承諾を得ずに進めてしまったり、自分の都合で社長のスケジュールを変更してくれと同僚に命令したり。この映画がダメな人は、まず由加利のキャラが苦手で、同情も共感もできないのでしょう。自己中心的な人間なのです。
でも私は、由加利のそこに共感しました。表向きは仕事のできるアラサー女性。でも内面はまだ幼い一面があるのです。だからイラつくと余裕がなくなり、自己中心的になるのではないかと。私自身にも、いい年して幼く、自己中心的なところがあるので、そこが自分とシンクロして刺さってしまいました……。
また由加利は、嘘をつかれて傷ついて「私が悪かったのかも」と自虐的にならない、かわいそうなヒロインじゃないところが逆に面白いと思ったのです。
【瀬戸内の旅を描いた中盤がちょっと残念】
由加利が探偵を雇って、彼のことを調べさせてからの展開もテンポ良く進みます。桔平に憧れてストーカー行為をしていた女子大生の心葉(川栄李奈)から桔平の情報を得て、桔平が書いた小説が見つかり、この小説に彼の真実が隠されていると、由加利は彼を知る為に探偵と瀬戸内海へ旅立つのです。
二人は小説に出てくる場所にヒントが隠されていると探すのですが、ここで小説の様々なキーワードがパズルのピースがハマるようにカチっといくかと思ったらいかない……。小説に出てくる灯台や彼が大切にしていたフィギュアもハっとさせることはなく、瀬戸内海の旅を描いた中盤はちょっと中だるみを感じてしまいました……残念。
【桔平の愛情の深さに涙涙……】
ところが終盤に差し掛かって、桔平の過去が明らかになると、彼が小説を書いていたこと、由加利に対してどんな気持ちを抱いていたかということがわかります。彼の過去は壮絶。だからこそ由加利との出会いは彼にとって奇跡で、前半に登場する、由加利と桔平の愛の日々が生きて来るのです。
この真実を経て、由加利は桔平の愛で変わるような気がしました。お金とか地位とか肩書ではない、ちゃんと人と人が向き合って支え合う愛情、そんな二人の未来が見えたからこそ泣けてしまいました。由加利は桔平の愛で満たされ、桔平は由加利の存在が希望になりという……素敵です!
ちなみに高橋一生ファンは前半、由加利と桔平のラブラブな感じにうっとりでしょう。白いシーツ(毛布?)にくるまる二人の美しいこと! イチャイチャしている感じもかわいい。笑顔もいっぱい見られます。一生ファンは前半をしっかりチェックしましょう!
執筆=斎藤 香(c)Pouch
『嘘を愛する女』
(2018年1月20日より、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー)
監督:中江和仁
出演:長澤まさみ、高橋一生、DAIGO、川栄李奈、野波麻帆、初音映莉子、嶋田久作、奥貫薫、津嘉山正種、黒木瞳、吉田鋼太郎
(C)2018「嘘を愛する女」製作委員会