ここは、恵比寿のはずれに佇む雑居ビルの2階、スナックマリアンヌ。ダメそうでダメじゃないちょっとだけダメな男に悩む乙女が夜な夜な集う、憩いの場です。今宵も、マリアンヌママに話を聞いてもらおうと、お客さまがやってきたようです。
――カランカラン。
ママ「いらっしゃい。ビールでいいかしら?」
乙女「はい…」
ママ「ずいぶん浮かない顔してるじゃない、なにか悩みあるなら聞くわよ?」
乙女「実は、いま微妙な関係の男の人がいて……」
【今日のダメ男さん:付き合ってないのにお前呼ばわりしたり嫉妬したりする自己チュー男】
相談者:リカ(28歳)
職業:フリーランス・デザイナー
ダメ男さん:友達以上恋人未満の彼 (41歳)
職業:広告代理店勤務
出会いのきっかけ:仕事関係の飲み会
リカ「彼とは一緒に飲みに行くようになってから、連絡も頻繁に取り合ってるし、最低でも2週間に1度は会ってるかな。ホテルに行く時もあるし……」
ママ「でも、付き合おうとか、好きって言われたわけではないのね?」
リカ「はい、そんな状態が3か月くらい続いてます。付き合ってはないけど、私が他の男の人と一緒にいると嫉妬するし、会いたいって言ってくれます。好きだとは言ってくれないけど、帰りが遅いと心配してくれるし、マメに連絡くれるし、ごはん代とかホテル代も絶対に彼が払ってくれるし……。会うと、すごく彼の愛を感じるんです。それに彼、年齢よりも若く見えてかっこいいし、一見モテそうなんだけど頑固で、実はさみしがり屋で、ちょっとぶっきらぼうで、子どもっぽいところがあって……。そんな姿を見せるのは、私だけなのかなって、ちょっと思っちゃったりしてるんです。彼からお前呼ばわりされてるんですけど、それも意外ときゅんときちゃうっていうか…」
ママ「なるほどね…。はい、パクチーと蒸し鶏のサラダよ」
リカ「ここって乾き物くらいしかないって聞いてたんだけど、こんなのもあるんですね。私、パクチー大好き!」
ママ「あなたの話が長いから…じゃなくて、リカちゃんはパクチー好きそうだなって思っていつもよりちょっと手をかけたのよ。まあ、和えただけなんだけど」
リカ「パクチーってクセが強くて最初は好きじゃなかったんだけど、食べ続けるうちにやめられなくなっちゃって。この香りがたまらないんですよね」
ママ「それでね、単刀直入に言わせてもらうんだけど、その男は完全にパク男ね」
リカ「えっ、パクチー男ってこと?」
ママ「嫌いな人は嫌い。でも、ハマる人はハマる悪魔のような男よ」
リカ「わかってます…。モテそうなのに結婚してないのは、どうしてなのかなって気になってたし」
ママ「そもそもひとりの人に尽くす結婚というものに魅力を感じないタイプかもしれないわね。パク男のパクは、パクチーのパクでもあるけど、パクパクつまみ食いするっていう意味もあるのよ」
リカ「それって造語ですか?」
ママ「当たり前でしょう、私の名言はだいたい造語よ? 厳しいことを言うようだけど、そのパク男は間違いなく他の女の子にも手を出してるわね」
リカ「たしかに飲みに行ったりはしてると思うけど、その後にだいたい何かしら連絡くるし……」
ママ「言いたくはないけど、女の子にフラれて、自分を慰めてくれるあなたに連絡をしたのね」
リカ「でも、それでもいつかは、俺はお前だけのものだって言ってくれるんじゃないかって……」
ママ「はあ……」
リカ「言いたいことはわかります。彼と会うのはやめようって思う自分と、彼にどんどんのめり込む自分とが、私の中でも毎日戦ってるんです」
ママ「違うのよ。何だか、昔の自分を思い出しちゃって」
リカ「でもね、ママ……! 私、やっぱり彼が好き。どうすればいいですか?」
ママ「彼とはきっぱり会うのをやめなさいって言うべきなんでしょうけど、そういう自己チュー男は案外、自分から好きって言えないパターンもあるしね……。それにあなた、フリーで仕事をしているんでしょう? 女がひとりで生きていくとなると、ときにはそういう経験が、成長のエッセンスになることもある。だから、今日の私からあなたにアドバイスできることはないわ。未来は、あなたが決めることよ」
リカ「“未来は、私が決めること”…。私、冷静になって考えてみます!」
――カランカラン。
常連客「横で聞いてたけどさ、今日のママ、ずいぶん優しいじゃない。いいの? あの子、ほっといて」
ママ「まあ、中毒性があるものって案外飽きやすいから、3か月後はリカちゃんも彼のことなんて忘れてるんじゃないかしら。女ってそんなものよ……」
こうして、今日もダメ男に悩む乙女をまたひとり、恋愛という戦場に送り込んだマリアンヌママ。次のお客さまは、あなたかも!? スナックマリアンヌでは、迷える乙女の悩みを聞く憩いの場として、いつでもご来店をお待ちしています。
撮影協力:コワーキングスナックCONTENTZ分室
執筆=マリアンヌ (c)Pouch / 撮影=K.ナガハシ
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