【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。
今回ピックアップするのは小松菜奈、坂口健太郎出演作『余命10年』(2022年3月4日公開)です。作家・小坂流加による同名小説の映画化で、小坂さんは映画のヒロインと同じ難病により、2017年に天国へと旅立ちました。原作者の思い、体験、生き抜く力がめいっぱいつまった素敵なラブストーリーです。では物語から。
【物語】
高林茉莉(まつり/小松菜奈)は、20歳の時に不治の病になり、医者から余命10年を宣告されていました。彼女は生きることに執着しないよう「もう恋なんてしない」と心に決めていましたが、同窓会で真部和人(坂口健太郎)と再会。
そんな和人は「生きる意味がわからない」と自殺未遂を図るなど、自分の居場所を見失っている青年でした。そんな彼に対し「ズルい」と怒る茉莉。そのことをきっかけに急接近した2人ですが、茉莉は和人に余命を隠し続けていました……。
【生きることに切実に向き合うヒロイン】
茉莉は自分の余命を知りながら、「どうやって10年を生きていこう」「恋愛なんてしちゃいけない」「生きることに執着しないようにしよう」など、自分に残された時間をどう生きるか、ということと常に向き合っています。
自宅療養中に、友達との食事会に出かけても余命のことは話さず「元気になったよ」と普通に振る舞ったり、少しでも仕事がしたいと就活してみたり、彼女なりに考えながら行動に移していきますが、なかなか前向きになれません。「何をやっても10年で終わりだ」という諦めも垣間見え、それがとても切ないんです。
それを演じる小松菜奈さんが素晴らしく、茉莉の心の震えまでスクリーンを通して伝わってきて……。本当に胸を掴まれる演技でした。
【ゆっくり歩み寄ってく恋愛】
茉莉と和人の恋愛も、同窓会で劇的な再会というドラマチックなものではなく、周囲の盛り上がりに乗り切れない茉莉と、同じく居心地の悪い様子の和人が、ぎこちない会話をしながらも近づいていく感じがリアルで良かった。2人の不器用さや誠実さが恋愛の形にも表れているなあと。
だからこそ、ずっと一緒にいられないという切なさのボルテージが物語の展開とともにグングン上がっていくのです。
【ヒロインの人生をしっかり描く】
不治の病がテーマの作品は、闘病の苦しさなどが描かれることがありますが、本作にそのような描写はあまりありません。茉莉の病は進行していきますし、後半は苦しむ描写もありますが、この映画では、茉莉が余命10年とどう向き合ったか、愛する人との時間をどう過ごしたのかということを描いているからです。
でも家族が、茉莉との時間を少しでも長く持ちたい、できれば病を治してあげたいと懸命に努力する姿は、やはり泣けました。残される方も辛いですから……。
また恋人役の坂口健太郎さん演じる和人が、ぎこちないながらもまっすぐに茉莉を思う姿は心が温かくなりましたし、2人を応援する友人の沙苗(奈緒)、タケル(山田裕貴)との関係も良かった!
まだまだコロナ禍で、不自由だなと思うことも多いけれど、生きることを改めて考えるきっかけをくれる映画『余命10年』。茉莉の人生をスクリーンで見守ってください。
執筆:斎藤 香(c)pouch
『余命10年』
(2022年3月4日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
原作:小坂流加(文芸社文庫NEO刊)
監督:藤井直人
出演:小松菜奈、坂口健太郎、山田裕貴、奈緒、井口理、黒木華、田中哲司、原日出子、リリー・フランキー、松重豊
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2022映画「余命10年」製作委員会