【最新公開シネマ批評】映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
今回ピックアップするのは、阿部寛さんの主演映画『異動辞令は音楽隊!』(2022年8月26日公開)。草彅剛さん主演『ミッドナイトスワン』を手がけた内田英治監督作で、オリジナルストーリーです! 阿部さんは本作でドラムに初挑戦。驚くほど素晴らしい腕前を見せてくれています。
では物語からいってみましょう。
【物語】
成瀬司(阿部寛さん)は、犯罪捜査一筋30年のベテラン刑事。しかし、昔気質な彼の熱血捜査は今の時代に合わず、上司と対立することもしばしば。そしてついに、成瀬に異動辞令が出てしまいます。
配属されたのは、警察内の音楽隊。刑事課とは全く違うノンビリした環境にガックリ肩を落とす成瀬。しかし、その音楽と仲間の存在が成瀬を大きく変えていくのです。
【堅物刑事が音楽隊!?】
しみじみと心に染み渡ってくるいい映画でした。冒頭では成瀬の熱血刑事ぶりが炸裂。
お年寄りから現金のありかを聞き出して奪うというアポ電強盗事件を追いかけている成瀬ですが、容疑者への詰め方が強引すぎて、後輩の坂本(磯村勇斗)からも「やり過ぎです!」と怒られる始末。同僚との関係もギクシャクしていて、時代から置いて行かれている感じがヒシヒシと伝わってきます。
ただ成瀬はそれに気づいていないので、どんどん孤立し上司とも対立。そして、音楽隊へと異動させられるのです。上司は厄介払いができたと思っているし、成瀬は左遷だと思っているけど、人生ってわからないですね。
この異動が成瀬の人生を大きく変えるのですから!
【犯罪捜査からドラム担当へ!】
音楽隊に入隊し、ドラム担当として演奏してみるものの、もちろん全然できないわけですよ。だって犯罪捜査一筋で音楽だけではなく、ほかのことには目もくれなかったんですもん。
最初こそクサクサして、坂本が受け継いだアポ電強盗の捜査に首を突っ込んだりして。でも、坂本から「先輩はもう関係ないんですよ!」なんてことを言われ、成瀬はやっと気づくんです。どんなにしがみついても、自分はもう捜査に必要のない人間だということが……。
でも成瀬がエライのは、そこで殻に閉じこもらず、ドラムと向き合おうとすることです。
【初めて人と向き合い、受け入れることを知る】
成瀬にドラムと向き合うきっかけをくれたのは、音楽隊のメンバー。成瀬がミスをして、自分の不甲斐なさに落ち込んだとき、メンバーの春子(清野菜名さん)は「ミスしてもいいんです。周りがカバーすればいいんですから」と声をかけます。
新人音楽隊員の自分は、周りのサポートがないと音楽隊の一員になれない。
そのとき、これまで「俺が俺が!」と強引に突っ走ってきて、周りを見ていなかったことに成瀬は気づいたんじゃないでしょうか。
「俺が俺が」では音楽は奏でられないことを知った成瀬は、ドラムの練習にのめり込んでいくのです。ここからが人生の再スタート。成瀬が一生懸命ドラムを練習する姿、なんだか胸がアツくなりましたよ。人って何歳になっても成長できるんだなって。
【阿部寛さんドラム初挑戦!】
それにしても、俳優さんってすごい。この映画のために阿部寛さんはドラムに初挑戦をし、素晴らしい演奏を聴かせてくれます。阿部さんだけじゃありません、清野さんはトランペット、高杉真宙さんはサックスなど、音楽隊のメンバーを演じた俳優陣、みんな自分で楽器を奏でているんですよ。バンド演奏シーンはこの映画のハイライトです。
また演奏しているときの阿部さん演じる成瀬の表情がいいんですよ。映画の前半は強面でいつもイライラしている感じだったけれど、音楽隊に向き合う決心をしてから表情が明るくイキイキしていって。情熱を傾けられるものを見つけて変わっていく成瀬の人生には、本当に勇気づけられます。
また後半、アポ電強盗事件がまた絡んでくるんですが、この決着の付け方もよかった!
ひとりの人間の人生の再スタートを描きつつ、エンタテインメントとしてもとても良い映画『異動辞令は音楽隊!』、ぜひ映画館で観てほしい作品です。
執筆:斎藤 香(C)pouch
Photo:©2022『異動辞令は音楽隊!』製作委員会
『異動辞令は音楽隊!』
(2022年8月26日、全国ロードショー)
原案・脚本・監督:内田英治 『ミッドナイトスワン』
出演:阿部 寛、清野菜名、磯村勇斗、高杉真宙、板橋駿谷、モトーラ世理奈、見上 愛、岡部たかし、渋川清彦、酒向 芳、六平直政、光石 研 / 倍賞美津子
主題歌:「Choral A」Official髭男dism