【最新公開シネマ批評】映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
今回ピックアップするのは、全米の批評はかなり高く、アカデミー賞最有力とも言われているレオナルド・ディカプリオ主演の最新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(2023年10月20日公開)です。監督はレオとのタッグは6度目の名匠マーティン・スコセッシ。もはや名コンビと言っても過言ではないでしょう!
というわけで、公開初日に劇場で鑑賞してきました! それでは、物語から。
【物語】
地元の有力者である叔父ウィリアム・ヘイル(ロバート・デ・ニーロさん)を頼って、オクラホマに移住したアーネスト・バークハート(レオナルド・ディカプリオさん)。そこで、先住民族オセージ族のモリー・カイル(リリー・グラッドストーンさん)と恋落ちて、2人はめでたく結婚します。
しかし、夫婦の周辺で謎の連続殺人が次々に起こり、ワンシントンD.Cから捜査官らがやってきて事件を捜査することに。すると、恐ろしい真相が明らかになっていくのです。
【人間の強欲が残酷な殺人事件の発端】
本作は、アメリカのオクラホマで実際に起こった先住民の連続殺人事件の映画化作品。これが現実に起こった事件だなんて心底恐ろしく、背筋が凍りました……。
先住民のオセージ族が暮らすオクラホマの居留地で石油が発見され、オセージ族は一気に豊かに。その彼らの富に目をつけた白人たちは、オセージ族と結婚して財産を相続できるように法律を定めたのです。これが連続殺人の発端!
オセージ族といい関係を結んでいるように振る舞いながら、裏で犯罪を画策していたアーネストの叔父・ウィリアム。オセージ族から石油の利権を奪い、白人社会を取り戻そうとしていたと思われます。
【愚かなアーネストにイライラ!】
ロバート・デニーロさん演じるウィリアムはとにかく頭がよく、決して声を荒げたり、怒り狂ったりしないのですが、ニコニコしながら大嘘をつく。人を懐柔するのが上手いんです。
「悪いようにはしないから」といって裏で部下に「アイツを殺せ」と命じていたり、ターゲットに毒を盛って長い時間かけて殺したり……。
前半でウィリアムの残酷な計画は薄々わかってくるので、アーネストが言いなりになることにイライラしちゃうんですよね。自分の人生を救ってくれた恩はあるかもしれないけど……。
ただ彼なりに葛藤はしているんです。なぜなら、アーネストがモリーを愛する気持ちは本物だから。
【残酷な計画の裏で育まれた本当の愛】
アーネストとモリーは子どもを3人授かり、彼は子どもたちの面倒も良く見ていたし、とても愛情を注いでいました。アーネストとモリーと子どもたちのシーン、好きだったなあ。
唯一、愛を感じたし、ウイリアムの計画さえなければ幸福な時間が育まれていたのに〜と。
【巨匠マーティン・スコセッシの演出の巧さ】
この映画は206分と長尺ですが、巨匠は観客の心を掴む術を知っています。
オセージ族のプロフィール、アーネスト、ウィリアムの関係性、モリーとの結婚という物語の導入部を短い時間でわかりやすく観客に見せていきます。だから観客はスッとこの映画の世界へと入り込んでいける……。さすがです!
【役者陣の名演技には凄みを感じる!】
また役者陣も素晴らしい! アーネストを演じたレオはダメ男の葛藤を見事に演じ切っていました。家族を愛しているけれど叔父に抗えないし、抵抗する術を見つけることができない。そんなアーネストに観客がイラっとするのはレオの熱演があったからこそ!
そしてウィリアム叔父を演じたロバート・デ・ニーロさんの老猾さ! いろんな人物を話術で丸め込んでしまう男を説得力ある芝居で見せて圧巻でした。この役、彼以外の俳優は考えられない。レオとデ・ニーロさんのシーンは常に緊張感があり、ヒリヒリしましたね。
また妻モリーを演じたリリー・グラッドストーンさんもすごく良かった。彼女自身もネイティブアメリカンであり、自分の家族に起こる不幸と悲しみ、彼女自身に「死」の足音が聞こえる絶望、さまざまな感情を内包した芝居は忘れられません。
後半、ワシントンD.Cの捜査官により連続殺人の真相が暴かれていく過程はとてもスリリング! アーネストとウィリアムの関係がどう転んでいくのか、ぜひ劇場で見ていただきたいです!
執筆:斎藤 香(c)pouch
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
(2023年10月20日より全国ロードショー)
監督:マーティン・スコセッシ
脚本:エリック・ロス、マーティン・スコセッシ
出演:レオナルド・ディカプリオ、ロバート・デ・ニーロ、ジェシー・プレモンス、リリー・グラッドストーン、タントゥー・カーディナル、カーラ・ジェイド・マイヤーズ、ジャネー・コリンズ、ジリアン・ディオン、ウィリアム・ベルー、ルイス・キャンセルミ、タタンカ・ミーンズ、マイケル・アボット・ジュニア、パット・ヒーリー、スコット・シェパート、ジェイソン・イズベル、スターギル・シンプソン