【最新公開シネマ批評】映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
今回ピックアップするのは映画『愛にイナズマ』(2023年10月27日公開)です。メインキャストは、松岡茉優さん、窪田正孝さん、池松壮亮さん、若葉竜也さん、佐藤浩市さんという日本映画界の演技派が勢ぞろい。なんという強力なメンツなんでしょう!
そして演出は『舟を編む』などの石井裕也監督。試写で観せていただきましたが、強烈でした! 胸にズドンと突き刺さる映画です。では物語からいって見ましょう。
【物語】
映画監督を目指す折村花子(松岡茉優さん)。
自分の家族の映画を撮るチャンスを得るものの、花子の感性をバカにして業界の常識を押し付けてくるプロデューサー(MEGUMIさん)と助監督(三浦貴大さん)が、彼女を監督から降ろしてしまいます。
しかし、バーで知り合った空気が読めない謎の青年・舘正夫(窪田正孝)と花子は意気投合し、彼に背中を押され、花子は彼と共に実家へ。
そして花子は、仲の悪い家族(佐藤浩市さん、池松壮亮さん、若葉達也さん)に無理矢理協力させ、家族映画を完成させようとするのですが……。
【理不尽な扱いに屈しないヒロインの精神力】
登場人物全員の人物像がスクリーンの中でイキイキと描かれていて、スクリーンにのめり込むようにして観てしまう。めちゃくちゃエネルギーに満ち溢れた映画でした。
正直、この映画に出てくる人たちはみんな “面倒くさい” 系の人たちなのですが、とてもチャーミングなんですよ。
行方不明の母のことが頭から離れない花子は「どうして家族の映画を撮りたい」という情熱があります。だからこそプロデューサーや助監督が押し付けてくる業界の常識や心無い言葉に必死に耐えますが、結局、裏切られ、企画は奪われ、散々な目に……。
でもいい意味でしつこい性格なので、そんなことに負けません。「諦めたくない」と思っているときに、謎の青年・正夫に出会い「実家で家族を撮る!」という行動に出るのです。
【心に傷を負った家族】
ところが折村家は仲が悪い。世渡り上手で恐竜オタクの長男、キリスト教徒になった次男、そして母が行方不明になったきっかけを作った父。みんなどこかに心に傷を負っている感じがあります。
とりあえず集まったので花子はカメラを回すものの、みんなカメラを前にするとぎこちなく、花子は「ダメだ、クソだ」と怒りまくり。
でも、家族を前にすると口が悪くなる花子の気持ち、なんだか分からなくもないなと。甘えもあるんだよね、何を言っても許されるという……。
【家族の丁々発止の会話が最高】
この映画は、家族の再会からの流れが最高なんです。前半で花子は理不尽に耐えに耐えているので、家族と会ってからはタガが外れます。詳しくは映画を見てほしいのですが、丁々発止の会話が最高。
特に一番おとなしいキリスト教徒の次男が「このカルト!」とか何度も言われたり、花子が家族を前にするとやたらと口が悪くなったり、長男が演劇部の元部長だから芝居のことはわかってると大口叩いたり……。ケンカばっかしているんですよ。
でも、みんな行方不明の母親を思っている気持ちは一緒。そこにグッと来るんです。ちなみに行方不明の母の真実=家族の秘密で最後の方で明らかになるのですが、これがまた胸を揺さぶられるんですよ。
【コロナ禍のモヤモヤを吹っ飛ばしてくれる!】
本作は、折村花子を中心とした家族の物語ですが、劇中の舞台はコロナ禍。やりたいこともできず、生活も厳しくなり、ストレスが溜まりまくっていた私たちの物語でもあるのです。
理不尽に傷つけられたヒロインが、家族を頼って怒りを爆発させる姿は、我慢しているだけでなく、叫んだっていいじゃん、怒ったっていいじゃん、そして、甘えたっていいじゃん!と言っているようで、見終わったあと、心が熱くなりました。
加えて、俳優陣がみんないい! 役を生きるってこういうことを言うんだと改めて思いました。俳優たちは自分が演じるキャラクターの芯を食ってる、血を通わせている!
だからケンカ家族の心の距離が縮まっていく姿に感動できるんです。
本当にいい映画、ぜひ多くの人に観ていただきたいです!
執筆:斎藤 香(C)Pouch
『愛にイナズマ』
(2023年10月27日より全国ロードショー)
監督・脚本:石井裕也
出演:松岡茉優 窪田正孝
池松壮亮 若葉竜也 / 仲野太賀 趣里 / 高良健吾
MEGUMI 三浦貴大 芹澤興人 笠原秀幸 / 鶴見辰吾
北村有起哉 / 中野英雄 / 益岡 徹
佐藤浩市