
【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選して紹介します。
今回ピックアップするのは、森七菜さん主演映画『炎上』(2026年4月10日公開)です。カルト教の信者の家庭で育ったヒロインがたどり着いた歌舞伎町での濃厚な経験と罪を背負う物語。試写で鑑賞しましたが、観客をのめり込ませるパワーのある作品でした。
では、物語から。
【物語】
小林樹理恵(森七菜さん)は、カルト宗教の信者の父(古舘寛治さん)に厳しく育てられてきました。
ある日、彼女は親の暴力に耐えられず、家出をします。彼女のSNSに届いたDMを頼りに向かった先は新宿・歌舞伎町。若者たちがたむろしている広場に行くと、みんなが樹理恵を歓迎し「じゅじゅ」と呼び、生活する場を与えてくれました。
彼女は自分の居場所が見つかったと思ったのですが、150日後。樹理恵は歌舞伎町に火を放ち、死者が出るほどの炎上騒ぎを起こすのです。
【逃げ場のない八方塞がりの青春】
本作は社会問題としても取り上げられる「トー横キッズ」をモデルにしたフィクション映画です。
冒頭、カルト教にはまった両親から樹理恵が暴力を受けるシーンが描かれるので、彼女が最悪の家庭環境にいることがわかります。そこから逃げたいと思う気持ちも理解できるし、彼女が歌舞伎町に居場所を見出す気持ちもわからなくはありません。
でも第三者から見ると、歌舞伎町の生活環境は最悪で、狭く清潔感のない部屋で雑魚寝状態だし、やさしい仲間たちもみんな心が病んでいるので信じていいのかもわからないし、「ここから早く逃げたほうがいいよ!」と思わずにいられませんでした。
しかし、家に帰ればまた樹理恵は両親に虐待されてしまうのか……と思うと、ここで暮らすしかない。底辺の生活から抜けられない。八方塞がりの人生。ここからどう展開していくんだろうとドキドキしながら見入ってしまいました。
【性を売り物にしながら稼ぐ世界】
樹理恵がいちばん仲のいい三ツ葉(アオイヤマダさん)は、体を売ってお金を稼いでいます。時給1000円くらいで1日働くよりも、30分くらい我慢すれば数万円稼げるんだから絶対にいい、と樹理恵に勧めるんですよ。
樹理恵は世間知らずなので、流されるままに体を売る仕事にはまっていきます。それほど生々しい描写がないのが救いでしたが、こんなことして、もう後戻りできないじゃないかと悲しい気持ちになりました。
【目標ができて明るくなったけれど】
ただ樹理恵はこのとき初めて目標を立てることができるのです。それはお金を稼いで実家にいる妹を救い出すこと。ひとりで逃げてきてしまい罪悪感を抱いていましたが、妹を救うことを目標にするように。
やはり人間って目標ができるとイキイキするものなんですね。樹理恵の表情は明るくなっていきます。しかし、妹を救うために頑張る仕事が性風俗なので見ているほうは辛い……。
三ツ葉も樹理恵のことを大切にしていると思えないし、彼らのリーダーKAMI(一ノ瀬ワタルさん)の言葉「真っ当になれると思うなよ」が脳裏をよぎります。親に支配され抑圧されてきた樹理恵は、考える力を親から奪われてしまったのかもしれないと思いました。
【キラキラの世界の裏に隠れた安っぽさ】
本作の長久允監督は5年もの間、この映画のためにトー横キッズに関係のあるさまざまな人に取材をして物語を作り上げたそう。
撮影は新宿・歌舞伎町。長久監督の映像センスは際立っており、リアルな一面を映し出すいっぽう、ときどきファンタジー色を強めてキラキラ感を演出し、生々しく辛い物語に10代の女子らしいポップさを加えています。
しかも、そのカラフル&キラキラした世界はとてもチープで、どこまで信用していいのかわからない嘘が入り混じった人間関係を投影しているように見えました。
歌舞伎町で生きる若者たちの厳しい現実を突きつけてくるような映画『炎上』。ひさびさにヘビィでガツンと来る作品でしたし、何より樹理恵を演じた森七菜さんの役に憑依したような素晴らしい芝居は圧巻でした!
ただ本当にハードな作品なので、元気なときに観に行ってくださいね。
執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:©2026映画「炎上」製作委員会
■炎上
2026年4月10日(金)全国ロードショー
監督・脚本:長久允
出演:森七菜 アオイヤマダ 曽田陵介
古舘寛治 松崎ナオ 新津ちせ 森かなた 髙橋芽以(LAUSBUB) 高村月 きばほのか 月街えい 川上さわ ユシャ みおしめじ 広田レオナ 一ノ瀬ワタル
主題歌:窓辺リカ 「炎上」