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濱口竜介監督の最新作『急に具合が悪くなる』今モヤモヤを抱えている人や現実から目を背けたくなるときがある人に観てほしい

約1時間前

【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が拝見した最新映画の中から、おすすめ作品をひとつ厳選して紹介します。

今回ピックアップするのは、濱口竜介監督の最新作『急に具合が悪くなる』(2026年6月19日公開)です。第79回カンヌ国際映画祭で主演のヴィルジニー・エフィラさんと岡本多緒さんが主演女優賞を受賞して話題になった本作。試写で鑑賞いたしましたが、今必要なこと、大切なことが描かれた作品でめっちゃよかった!

では、物語からいってみましょう。

【物語】

パリ郊外の介護施設「自由の庭」でディレクターをしているマリー=ルー(ヴィルジニー・エフィラさん)は、「ユマニチュード」というケアの哲学と技法を実践しています。学べば誰でもできるのですが、介護スタッフは常に人手不足で学ぶ時間がない。マリー=ルーと衝突するスタッフもおり、彼女は悩んでいました。

そんなとき、自閉スペクトラム症の少年・智樹(黒崎煌代さん)を危険な場所から助けたマリー=ルーは、その保護者である舞台俳優の清宮吾郎(長塚京三さん)と舞台演出家の森崎真理(岡本多緒さん)と知り合い、会話を重ねて友情を育んでいくのです。

【介護の理想と現実に悩むヒロイン】

196分と長尺の映画なのですが、全く飽きませんでした。むしろ幸せな196分だったと言っても過言ではありません。

その魅力はマリーと真理の会話がとても興味深く「なるほど、なるほど」と何度も思うほど、学びと共感がつまっていたからです。

マリー=ルーは、介護される側を “介護の対象” としてではなく人として扱うようにと介護士たちに伝えます。「ユマニチュード」を学べば、介護士と介護される側の人間が寄り添いながら心地よく生活ができるはず。介護側の都合を押し付けてはいけないと語るのですが、施設のリーダー的存在の介護士は「そんなことを学んでいる時間はない」とピシャリ。

介護士たちと分かり合えず、悩んでいたときに真理と出会い、彼女の演出する舞台を見にいきます。

【私たちの人生に直結する言葉の数々】

真理は『近づいてみれば、誰もまともな者はいない』というタイトルで、清宮主演のひとり舞台を上演していました。イタリアで精神病院がどうやって廃絶していったのかを描いた物語で、上演後、観客とのQ&Aで真理は「私は進行性がんで余命半年です。でも精神病院をなくせるという固定概念を打ち破った実話に勇気をもらった」と語ります。その言葉が凹んでいたマリー=ルーの心に響くのです。

その後、親しくなったふたりはたくさん対話を重ねていくのですが、介護や病気のことだけでなく、世の中の仕組み、資本主義社会についてなど多くのテーマがあり、それをとてもわかりやすく噛み砕いて語ってくれるのがありがたかったです。

難しいことじゃない。自分たちの生活や人生に直結する問題だから、私は彼女たちの会話にめり込んでしまいました。

【日本とフランスの国境を超えた】

マリー=ルーと真理の会話はフランス語だったり日本語だったり、そのときによって違うのですが、言語がコロコロ変わることはまったく気になりません。

フランス語のときはもちろん字幕ですが、とてもスムーズにすんなり心に飛び込んできます。これはヴィルジニーさんと岡本さんのお芝居の力、濱口監督の演出と脚本の力でしょう。

フランス人と日本人ではなく、今を生きる人間として、より良く生きるためにどうすべきかと、語り合っている気がしました。だからスッと心に飛び込んできたのかもしれません。

【俳優たちの素晴らしさ!】

キャストもみんな素晴らしかったです。ヴィルジニーさんはときどき日本語、岡本さんはフランス語のセリフを話しますが違和感なし。そして真理の舞台の主演俳優を演じる長塚京三さんはフランス語を流暢に操り、気品があって素敵。

その息子を演じる黒崎煌代さんは、映画『見はらし世代』『九条の大罪』(Netflix)と出演作が次々高評価の気鋭の若手。俳優たちの演技もとても見応えがあるんです。

【やさしい世界観が希望の道標】

本作の魅力は何より、映画全体を取り巻くやさしい世界と生命力です。

介護士とがん患者が主役で、介護施設が主な舞台と聞くと、介護する側の苦労や介護される側の混乱を想像しがち。明るい気持ちにはなりにくいと思いますが、本作は違います。

映画の後半、マリー=ルーの努力が少しずつ実を結び、施設の庭で穏やかな時間が流れます。真理も医者から「急に具合が悪くなります」と言われた通りに急変しますが、とても落ち着いていて、かつ、最後がくるまできっちり生き抜くという覚悟も感じました。過剰にドラマチックにせず、感動を煽らないところがいい。濱口監督のセンスを感じました。

見終わって、とても穏やかな気持ちになれましたし、希望も感じました。現実に苦しんだり、モヤモヤしていたりしている方にオススメしたい! 濱口竜介ワールドをぜひ体感してください。

執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:© 2026 Cinéfrance Studios – Arte France Cinéma – Office Shirous – Bitters End – Heimatfilm – Tarantula – Gapbusters – Same Player – Soudain JPN Partners

急に具合が悪くなる

2026年6月19日より全国ロードショー
監督:濱口竜介
原作:宮野真生子・磯野真穂著『急に具合が悪くなる』(晶文社)
出演:ヴィルジニー・エフィラ 岡本多緒 長塚京三 黒崎煌代
提供:Soudain JPN Partners フランス=日本=ドイツ=ベルギー合作

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