[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップしたのは、アカデミー賞女優・ジョディ・フォスター監督作『マネーモンスター』(2016年6月10日公開)です。
先日の来日プロモーションでは、キー局ではないTOKYO MX「5時に夢中!」にジョディ監督が出演。AD役でカンペ出しながらの登場は超話題になりました。他の番組にも出演していたけど「5時夢」がいちばん話題になっていましたから、宣伝効果は絶大! この番組出演にOKしたジョディ監督、さすがです。
ではスリリングな社会派サスペンスを見ていきましょう。
【物語】
財テク番組「マネーモンスター」は、パーソナリティのリー(ジョージ・クルーニー)の巧みな話術で、株価予想やアドバイスを伝える生放送番組。その日もいつものように番組はスタートしました。
ところが、配達業者を装って入り込んだカイルという若者(ジャック・オコンネル)が突然現れ、リーを人質にとって番組をジャック!
ディレクターのパティ(ジュリア・ロバーツ)は、リーが装着しているイヤホンを通して指示を出しつつ、若者の素性を割り出し、犯行の動機を明らかにしていきます。
彼の犯行動機は、株で財産を失ったこと。しかし、調べていくうちに、その株が暴落した理由が怪しいことにパティは気付くのです。
【サスペンス劇が社会派ドラマに変化していく】
財テク番組の情報を信じて、全財産を失った若者が、逆恨みして番組をジャック。株暴落で失われた8億ドルを要求し、おまけにパーソナリティに起爆装置を装着。そのすべてが全米で生放送される! という、始まりはスリリングなサスペンスです。
ところが、犯人の若者が「この大暴落がおかしい。なぜ起こったのか説明しろ!」と叫び、株取引の裏を番組スタッフが調査するという展開から、サスペンスを含みつつ、社会派の側面を見せていきます。
社会の底辺で生きる若者の怒りは、株の暴落の真相、そして、財テク番組を作りながらも、株の暴落について深く追求することなく「こういうこともある」「予測できない」と片付けようとしていた、メディアの甘さも指摘することになるのです。
こうなると、見ている方も「犯人が憎い」という気持ちよりも、彼のやっていることは犯罪であり、愚かだけど「暴こうとしていることは間違っていない!」と思うわけで、それが劇中でも世論を見方に着けることに繋がっていくのです。
【成功者が弱者に救われる映画】
ジョディ・フォスター監督はこの企画に魅了された点をこう語っています。
「エキサイティングでスピーディ。知的でわかりやすいサスペンスの要素と、心を揺さぶるリアルストーリーという対極の要素が混在しているところに惹きつけられた。実に今日的な話だと思うわ」
特に、人質になる財テク番組のパーソナリティであるリーの変化に興味を持ったとも。
「私が一番ワクワクしたのは、仕事で成功しているのにダメ人間で軽薄でうぬぼれ屋のリーが、まわりに助けられながら難局を切り抜け、人間的な心を見出して、大人の男に成長へと変化する過程ね」
確かに、映画の冒頭から番組で弾けまくるリーは、お調子者の印象はぬぐえない。お堅い財テク番組を俺様の魅力とアイデアで高視聴率の番組にしてやっている、といった様子です。
しかし、リー自身も、自分が調子に乗っていたことが、犯人を逆上させたひとつの原因だと徐々にわかってくるのです。つまり社会の弱者である犯人の行いによって、リーは自分のダメさに気付かされるのですね、それも命懸けで。
【いちばんの悪とは誰なのか?】
『マネーモンスター』は、犯人の動機が明らかになっていくにつれ、金の亡者は誰なのかがわかります。映画ではある人物をフォーカスしますが、でもこれは世界のどこにでもいる人物と言えるでしょう。もちろん日本にも。
株の恐ろしさやお金の価値がわからなくなった人々の腐り加減にうんざりしつつも、エンタメ性と社会性をバランスよく配した社会派エンターテインメントとして最後まで楽しめる映画『マネーモンスター』。
ジョージ・クルーニーも持ち前の個性を活かし、ジュリア・ロバーツは今まで見たこともない正統派ワーキングウーマンのたくましさで魅了。
そして犯人を演じたジャック・オコンネルも新鮮! 彼の崖っぷち感と情けなさは、この映画を支えているといってもいいほどです。
スリリングでドキドキハラハラするけど実は社会派って映画、あまりありませんからね。そういう意味でもオススメ。デートムービーとしてもイケますよ!
執筆=斎藤 香(c)Pouch
『マネーモンスター』
(2016年6月10日より、TOHOシネマズ日本橋ほか全国ロードショー)
監督:ジョディ・フォスター
出演:ジョージ・クルーニー、ジュリア・ロバーツ、ジャック・オコンネル、ドミニク・ウェスト、カトリーナ・バルフほか
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