【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
今回ピックアップするのは映画『エンドロールのつづき』(2023年1月20日公開)。インドの少年が映画に出会い、夢中になり、自分も映画を撮りたい! と夢を叶えるために突き進んでいく物語です。
“インド映画” といえば現在大ヒットしている『RRR』のようなアクションとダンス満載のド派手な映画が有名ですが、こういう映画もあるんです……!! では、物語から。
【物語】
9歳のサマイ(バヴィン・ラバリくん)は、家族でギャラクシー座という映画館に出かけます。映画初体験のサマイは、初めての映画に大興奮。翌日も映画が観たくて、映画館に忍び込みますが、スタッフに見つかり追い出されてしまいます。そんな彼を救ったのは映写技師のファザル(バヴェーシュ・シュリマリさん)。
サマイの母(リチャー・ミーナーさん)が作るお弁当と引き換えに映写室から映画を観せてくれると言うのです。またファザルは映写機の仕組みや「映画は物語である」ことをサマイに教え、彼の心に映画愛が膨らんでいくのです。
しかし、学校をサボって映画館に通い詰めていることが父(ディペン・ラバルさん)にバレてしまい……?
【映画の素晴らしさをとらえた名作】
最初に感想を言わせてください……この映画、良かった〜!
映画の魅力、楽しさ、美しさがいっぱい詰まっていて、サマイがスクリーンをキラキラした瞳で見つめるその姿を見ながら、自分が映画好きになった昔を思い出して遠い目になってしまいました。
でもサマイは普通の映画ファンとは少し違います。彼は映画館の暗がりで、映写技師がスクリーンに向かって放つ光の先に物語が展開されていくのに感動し、そんな世界を自分も創り出したいと思うのです。
【サマイの情熱とお父さんの怒り】
サマイはファザルに映写機の仕組みを説明してもらって知識を得るや、鏡やガラスを使って光を反射させたり、足踏みミシンなど身近にあるものを利用して映写機を作ったりして、友だちと一緒に映画を作ろうと奮闘します。
このシーンがめちゃくちゃ楽しそう。スクリーンの代わりになる白い布は、サマイのお母さんのサリーっていうのも良いんですよね。
でもお父さんはサマイが映画に夢中で勉強を疎かにしていることに怒ります。サマイのお父さんはチャイを売って生計を立てているのですが、その仕事は本意ではありません。お父さんはサマイに自分みたいになって欲しくない。映画作りをして将来が約束されるわけではないからです。
【サマイの映画愛が消えてしまった?】
お父さんの目を盗んでは映画作りを貫いていたサマイだけど、その後、衝撃的な出来事が起きます。小さな町の映画館が時代の変化に押しつぶされそうになるのです。
サマイはそのことをきっかけに映画監督の道を諦めかけるのですが……。
その後の展開は、若干、ありがちかなと思いつつも、子を思う親の気持ちに心を持っていかれました。
【パン・ナリン監督の自伝的な物語】
本作のストーリーはとてもシンプル。ですが、見せ方がうまいんです。特に最後のシーンは、バン・ナリン監督の映画愛とセンスが炸裂。インドの女性が腕に身につけているブレスレット、何重にも重ねてつけるその色とりどりの美しいブレスレットが映画の歴史に繋がっていくのです。
これには伏線があるんですけど、ぜひ映画を観て確認していただきたい。うまいな〜と思いましたよ。
また本作は、ナリン監督の自伝的な要素があり、ロケ地は監督の故郷インドのグジャラート州。
CGで何でも作り出せるようになった今、自然光やロケによる本物にこだわりながらフィルム時代の映画の素晴らしさを描いています。
映画の原点をサマイというインドの少年とともに辿り、改めて映画の素晴らしさを感じさせてくれて……もう感謝しかありません!
ちなみにサマイのお母さんが作るカレーのお弁当がめちゃくちゃ美味しそう。映画を見終わったあと、インド料理屋さんに直行したくなりますよ!
執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:ALL RIGHTS RESERVED ©2022. CHHELLO SHOW LLP
『エンドロールのつづき』
(2023年1月20日より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー)
監督&脚本:パン・ナリン
出演:バヴィン・ラバリ、バヴェーシュ・シュリマリ、リチャー・ミーナー、ディペン・ラヴァル
配給:松竹