【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
今回ピックアップするのは、サンダンス映画祭で大絶賛された『SCRAPPER/スクラッパー』(2024年7月6日公開)です。
母親を亡くしてひとり暮らしをしていた少女の元に、12年ぶりに父親が会いに来ることから始まる物語。ヴィジュアルのセンスも抜群だし、逞しく生きるヒロインと父との関係が変化していくプロセスがいいんですよ〜。では、物語から。
【物語】
母を亡くしたジョージー(ローラ・キャンベルさん)は、ソーシャルワーカーや近所の人々の介入をかわしながら、親友のアリ(アリ・ウズンさん)と自転車を盗んで売ったお金で、母との思い出が詰まったアパートで暮らしていました。
ある日、父親のジェイソン(ハリス・ディキンソンさん)が突然やってきます。ジョージーの母が亡くなったことを知り、心配して戻ってきたのです。しかし、12年間も会いに来なかった父をジョージーは信頼できず、追い出そうとするのですが……。
【強くたくましく生きるヒロイン】
父は出ていき、母は亡くなり、ひとりぼっちの少女の物語ーーー。
そう聞くと「かわいそう」と思いがちですが、こちらのそんな思い込みを吹き飛ばすほどジョージーはたくましい!
冒頭から高級な自転車の持ち主に「この自転車は問題があるわよ」と言葉巧みに手放させて、お金に換えるのですが、そのワンシーンだけで、ジョージーは母の死後、図太く生きてきたんだなというのがわかります。やってることは犯罪なのでダメなんですけどね……。
でも生きていく上で、話し相手や心の支えって必要。そんなとき、親友・アリの存在が大切になってきます。彼の人懐っこくヤンチャな個性が、ジョージーの孤独を和らげていると思いました。
【若い父親と娘のギクシャクした日々】
そんなジョージーの元に、出て行ったはずの父のジェイソンが訃報を聞いて帰ってきます。ひとりになった娘を心配して戻ってきたのですが、「12年間も会いにも来なかったくせに、何を今さら!」とジョージーは思うわけですよ。
何か良からぬ理由で戻ってきたのではないかと疑うジョージー。その気持ち、わからなくはないのですが、ジェイソンの振る舞いを見ていると「そんなに悪い人じゃないかも」と思わせるんですよね。
それでもジョージーは頑として心を開かない。人生をサバイブしてきた少女ゆえに「騙されないぞ!」という気持ちが強いのか、めちゃくちゃ頑固なんですよ〜。
でもその頑固さは、母との思い出がいっぱいの部屋を守るためでもあるのかなと。いきなり帰ってきた父親に踏み込まれたくなかったのかもしれません。
【孤独な少女を彩るポップな色彩】
なかなか打ち解けられない父と娘ですが、彼らを取り巻く映像世界は色彩が豊かでポップ! ジョージーの住むアパートは棟ごとにピンク、パープル、イエローのパステルカラー。部屋も大きなソファーにカラフルなクッション並び、壁紙やキッチンに置かれた食器も可愛い。少し散らかっているけど可愛くまとめています。
またジョージーについて語るクラスメイトが登場するのですが、彼らもカラフルで、おしゃれガールズは全員ピンク、自転車ボーイズはイエロー。それぞれ色を統一していて、シャーロット・リーガン監督の映像と美術センスの良さが作品に彩りを加えていて素敵でした!
難を言えば、小銭を稼ぐ方法は自転車を盗むのではなく、犯罪ではない方法にしてほしかったな〜。大人たちが周りにいるのにスルーしているのがちょっと気になりました。
とはいえ、ジョージーが精神的に少しずつ成長していく様を丁寧に描いた本作。ギクシャクしっぱなしの父と娘、わかりあえる日は来るのでしょうか。
ぜひスクリーンで頑固少女と若き父親の物語を見届けていただきたいです!
執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:© Scrapper Films Limited, British Broadcasting Corporation and the The British Film Institute 2022
『SCRAPPER/スクラッパー』
(2014年7月5日より、全国ロードショー)
監督・脚本:シャーロット・リーガン 出演:ローラ・キャンベル、ハリス・ディキンソン
2023 年/イギリス/英語/84 分/スコープ/5.1ch/PG12/原題:SCRAPPER/日本語字幕:北村広子
提供:キングレコード/配給:ブロードメディア/配給協力:フリック