「イギリス映画」の記事まとめ

レイフ・ファインズ主演『ザ・コラール 希望を紡ぐ歌』が教える音楽の力。戦争で不安な心を癒してくれる寄せ集め合唱隊の物語のお話です

【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選して紹介します。

今回ピックアップするのは、映画『ザ・コラール 希望を紡ぐ歌』(2026年5月15日公開)です。『教皇選挙』のレイフ・ファインズさんが主演。偏屈な指揮者と寄せ集めのメンバーによる合唱団が歌で人生を彩っていく物語です。

しみじみよかったので、ご紹介したいと思います。

【物語】

第一次世界大戦下の1916年。イギリス北部ヨークシャーのアマチュア合唱団コーラル・ソサエティは存続の危機でした。若い男性団員が徴兵で抜けてしまったからです。

そして戦争が長引くほどに戦死者は増え、人々の気持ちが暗くなってゆく中、コーラル・ソサエティは「今こそ歌でみんなの気持ちをつなぎとめよう」と新たな団員を募集することになります。加えて、指揮者が入隊してしまったので、新しい指揮者ヘンリー・ガスリー(レイフ・ファインズさん)を迎えますが、彼は敵国ドイツで活動していた過去がありました……。

【戦時中のイギリスの小さな合唱団】

戦争の真っ只中のイギリス。人々が普通に生活しているので戦時中の重苦しい雰囲気はありませんが、若い青年が戦死者の通知を家族に届ける任務を遂行している姿を見て、直接攻撃されていなくても死の足音はずっと聞こえているんだということがわかります。この街の人々は、どんより曇ったイギリスの空と同じような気持ちで日々過ごしているのでしょう。

 

そんな中、暗い気持ちを上げるためにと合唱団を運営するオジサンたちが立ち上がるのです。

【歌うことで幸せな気持ちに】

新しい指揮者ガスリーはドイツで活動していたから、最初こそ「裏切り者」と言われますが、強いメンタルの持ち主なので批判をスルーして合唱団のオーディションに臨みます。

オーディションのシーンは楽しかったですね。歌唱力が抜群の人もいれば、ガスリーの表情が「は?」という感じでかたまっちゃうレベルもいたりして。

でもうまいい下手関係なく「歌が好きなら入団させちゃえば?」と思いました。大きな声で歌うと気持ちいいじゃないですか。戦争の影におびえる毎日、街の人々がみんなで集まって歌う。それだけでも幸せな気持ちになれると思うんです。だからみんなオーディションに集まったんじゃないかな。

【バラバラ合唱団がレベルアップ】

ガスリーは真面目に根気よく合唱団を指導していきます。最初にみんなの合唱を聞いたときはシロウトの私でも「バラバラだな〜」と思いましたが、これがどんどんよくなっていくんですよ!

合唱団が順調にいくようになると、運営側は団員を増やそうとします。なんと病院まで行って、入院患者に「誰か歌える人いませんか〜」と直接募集かけたりして。戦争は激化してみんな気持ちは沈んでいるので、何人か手を上げるんです。合唱団のメンバーが増えて、にぎやかになっていくプロセスがとてもよかったです。

【戦時中の恋はとても切ない】

本作では合唱団のメンバーの恋愛エピソードもさりげなく描かれています。でも戦時中の恋愛は切ないですね。若い退役軍人クライド(ジェイコブ・ダッドマンさん)は、戦地で右腕を失い、帰郷したら恋人の心も失ってしまいます。

合唱団でいちばんの歌唱力の持ち主メアリー(アマラ・オケレケさん)さんは、これから徴兵される若い軍人と両思いになりますが、彼が出征する前日に誘われても一線を越えられません。

「神様にあなたが無事に帰還できるように祈ったからできない」と。すると彼は彼女の前で服を脱ぎ「この体を覚えておいて欲しい、全部そろっているこの体を」と告げます。

生きて帰れたとしても、体の一部が失われている可能性もある。このシーン、涙ぐんでしまいました。やっぱり戦争はダメだ、人生これからという若者にこんなことを言わせるなんて。

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【レイフ・ファインズ様の説得力】

的確な指導力と音楽愛によって人々の信頼を得て、ガスリーは合唱団を完成させていきます。そんなガスリーを演じるレイフ・ファインズ様、やっぱりいい!

ガスリーはどちらかと言えば厳しい指揮者です。しかし、音楽を知り尽くしているから、彼の言葉のひとつひとつに説得力があるんです。

毎日少しの音楽を聴くべきだ。魂の美しさが世俗に汚されぬように

音楽を愛する心を失ったら、人生の彩がなくなってしまうのかも。この映画ではクラシックを扱っていますが、自分の琴線に触れる音楽ならばなんでもいいのではないかと思います。ガスリーことレイフ・ファインズ様の演技が心にしみわたりました。

 

戦場に送られるかもしれない、家族の訃報に触れるかもしれない、街が攻撃されるかもしれない。そんな恐怖におびえながら生きている人々の心に光を与えた合唱団の物語『ザ・コラール 希望を紡ぐ歌』。平和であることの喜びやささやかな幸せを改めて思ったり、音楽が与えてくれる豊かさ、歌うことの楽しさもしみじみ感じさせてくれる作品です。ぜひ!

執筆:斎藤 香(c)Pouch

『ザ・コラール 希望を紡ぐ歌』
2026年5月15日(金)より全国ロードショー
監督:ニコラス・ハイトナー
脚本:アラン・ベネット
出演:レイフ・ファインズ、ロジャー・アラム、マーク・アディ、アラン・アームストロング、ロバート・エムズ、サイモン・ラッセル・ビール
公式サイト:https://longride.jp/choral/

ギクシャクした父娘はわかりあえる?サンダンス映画祭で大絶賛『SCRAPPER/スクラッパー』はポップなインテリアにも注目

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今回ピックアップするのは、サンダンス映画祭で大絶賛された『SCRAPPER/スクラッパー』(2024年7月6日公開)です。

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[公開直前☆最新シネマ批評]
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そんなパディントンが大活躍する実写映画が『パディントン』。小さなぬいぐるみかと思ったら、意外に大きくてビックリしましたが、その言動は紳士的でけなげなパディントン! ではご紹介しましょう。

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