以前、東京の満員電車のなかにひそむ妖怪についての記事「東京の満員電車にひそむ妖怪12選」をご紹介したところ、多くのご意見、ご感想、大反響をいただきました。なかでも多かったのが「この妖怪忘れてない?」というご意見です。それらすべてに目を通してみると、なるほどたしかに「忘れてた!」と言わざるを得ない、ご紹介しきれなかった妖怪が多数存在することが判明しました。

ということで今回は、新たな妖怪を加えた「【完全版】東京満員電車妖怪32選」としてご紹介したいと思います。

その1:妖怪ディフェンダー
降車時に出現する妖怪です。ドアの開くホーム側に立っているにもかかわらず、後ろには降りたい人がたくさんいるにもかかわらず、一度ホームに降りることもせず、断固として車内に残ろうとする習性があります。動かざること山の如し。抜こうと思っても背中でブロック。まさに鉄壁のディフェンダー、それが妖怪ディフェンダーです。たのむから一度ホームに降りて下さい。そうすればみんなスムーズに降車できます。

その2(NEW!):妖怪インサイダー
車内はギュウギュウの大混雑。にもかかわらず、まるでドリル戦車のように車内の内部、奥深くに突入していく妖怪です。妖怪インサイダーが好む場所は、ドアから最も遠い場所である「7人座りロングシート」の中間あたり。なぜこの場所を好むのかといえば、ずばり、乗降車時に動かなくてよい可能性が高いからです。つまり、動きたくないけど「妖怪ディフェンダー」にはなりたくない妖怪がインサイダーとも言えるでしょう。

その3(NEW!):妖怪ブロッカー
上記の妖怪インサイダーの天敵といえるのが、妖怪ブロッカーです。立ち位置はシートの端、座席の前。ユーザーからの情報によると、満員電車内で比較的安全な場所といえる「7人座りロングシート」や「3人座りシート」前面に入ろうとする人間を、まるで門番のごとくブロックするといいます。「テコでも動かず通せんぼ」とのこと。インサイダーとブロッカー、激しく火花が散っています。

その4:妖怪リュックサック
大きなリュックサックを背中に背負ったまま満員電車に乗車する妖怪です。非常に邪魔です。あなたのうしろ、通れません。リュックは体の前面で持って下さい。

その5(NEW!):妖怪床置き
妖怪リュックサックは、ある意味「空中における障害物」。その一方で、地雷のごとく地面に障害物を置いてしまうのが「妖怪床置き」です。ユーザーからのコメントには、大きなスポーツバッグや大きなビジネスかばん、また、キャスターの付いている旅行用カバン、通称「コロコロ」なども邪魔であるとのこと。たしかに置く場所がないので仕方ないといえば仕方ないのですが、逆に床に置かなかったら置かなかったで妖怪リュックサック入りしてしまうという、悲劇のダブルリーチ状態な妖怪です。

その6:妖怪プッシュ
乗車時や降車時に出現する、とてもせっかちな性格の妖怪です。しっかりと前に移動しているにもかかわらず、後ろからグイグイと押してきます。そんなに押されても困ります。前には人がいるんです。つっかえているんです。そんなにグイグイ押してきたら、私も妖怪プッシュになってしまうではありませんか。

その7(NEW!):妖怪だんまり
人にぶつかったり、足を踏んでしまったりしたときは一言「すみません!」と言うだけで、気持ち的にはお互い楽になれます。「どーもすみません!」「おりまーす!」「ちょっとすみませーん!」と言うだけで、ブロック系の妖怪たちも「ハッ」と我に返ったりします。スペースを空けてもらったら「ありがとうございます」。礼儀ですね。それをしないのが妖怪だんまりです!

その8:妖怪ちょい広めに間隔あけ座り
一般的にロングシートは7人座席。シルバーシートの位置にある座席は3人です。にもかかわらず、「妖怪ちょい広めに間隔あけ座り」が出現するだけで、秩序は一気に崩壊します。6人しか座れなくなってしまうのです。なんでそんなに間隔あけるのか。それがお前のやり方か。満員なんだぞ。分かってんのか? だいたい、最近のシートはひとりひとりに「くぼみ」が付いているではないか。なのにどうして……。

その9(NEW!):妖怪足卍(あしまんじ)
なんとなくアントニオ猪木の卍固め(まんじがため)のような名前ですが、平たく言えば、満員電車にもかかわらず座りながら足を組んでいるというエラそうな妖怪です。目の前に人が立っていてもお構いなし。「邪魔なんだよ!」と言いたいところですが、たいそうエラそうな足組みしているので、電車の揺れにあわせて「チョンチョン」と小突くくらいしか気づかせる方法はありません。しかし、その小突きで「ハッ」と我に返ったりもするので、揺れ合わせ式チョンチョン小突きは有効なのかも知れませんね。

その10(NEW!):妖怪フルオープン
ひそんでいる場所は座席シート。ドッシリと座っています。しかし、やたらと脚をガバッと開いている。左右にフルオープン状態で開いている。ギルガメの「ローバー美々」状態で開いている。とにかく脚を開きすぎているのが、この妖怪フルオープンです。満員電車で運悪くこの妖怪の前に立ってしまうと、フルオープンされた脚の間(中)に直立することになります。妖怪がオスで、人間が女性だと、とにかくものすごい屈辱感。私、あなたの彼氏じゃないのに……と。

その11:妖怪角位置死守
電車のドア脇にあるバー付近の角位置を、どんなことがあろうとも、どんな状況になろうとも、絶対に死守する妖怪です。余裕ある乗車率の電車では無害ですが、下敷き一枚入らないほどの最強レベル満員電車では、絶対的安全エリアの「角位置」から動かざるを得ない状況になったりもします。降車時なんて特にそう。でも、絶対に動かない。もはやバーと一体化。車両と完全に一体化。少しは動いて、お願いだから。まあでも基本は無害。なかなかの人気者で、ナンバー2の人気をほこります。

その12(NEW!):妖怪バーオンザヘッド
ある意味、妖怪角位置死守の天敵といえるのが妖怪バーオンザヘッドです。ポジションは座席シートの端。電車におけるプラチナゴールデンシートこと、端っこの席です。妖怪バーオンザヘッドは、基本的に眠っています。そして、頭の横あたりに位置するバーに頭を添え、気持ちよさそうに寝ています。真の妖怪角位置死守ならば、角位置の手すりバーと一体化しているので干渉することはありませんが、スペースを広く使いがちな妖怪角位置死守になると、隅っこ席横のバーに腰を添えたくなってしまいます。しかし、妖怪バーオンザヘッドの頭がそれをブロック。一触即発の状態が続くといいます。

その13(NEW!):妖怪立ち寝
読んで字のごとし妖怪です。なんと立ったまま寝てしまうという、野比のび太もビックリの高等スリーピングテクニックを持っています。基本的に害はありませんが、たまにバランスを崩し「ドン!」とぶつかってきます。疲れている場合もあれば、酔っ払っている場合もあります。寝てしまうほどの体力消耗っぷりなのに、立たざるを得なかった悲劇の妖怪とも言えるでしょう。お疲れ様です、明日もがんばれ!

その14:妖怪もう入れないよフェイク
人気ナンバー3の妖怪がこちら。実はまだ乗車率90%程度なのに、ドア側ギリギリ、もしくはドアから片足をはみ出させて「もうこのドアからは入れないよ。満員状態だよ!」とアピールする演技派の妖怪です。別名・地獄の門番。もしくは「バウンサー(用心棒)」。この妖怪の演技に騙された新参者は、本気で混んでいる車両(乗車率200%)に乗らざるを得ない状況になったりもします。

しかしその一方で、すでに車両にいる乗客にとっては守護神にもなります。お国に攻めこむ新参者を「妖怪もう入れないよフェイク」が見事にブロックすれば、余裕ある乗車率が維持できるからです。ただし、残念ながらこのフェイクは出発直前で突破されることが多いです。混んでいようが乗り込まなければならない勇者たちが、背中からグイグイと押し入ってくるからです。

その15(NEW!):妖怪傘野雫(かさのしずく)
りぼんの漫画が原作の映画『耳をすませば』の主人公・月島雫(つきしましずく)のようなサワヤカな名前をしていますが、その実態はベッチョベチョです。雨の日に出現し、傘の先から雫をポタポタと乗客の足元に垂らしていくという恐怖の妖怪です。傘がベチャベチャなのはしょうがない。濡れているのもしょうがない。だけどだけど、傘の先っちょまで意識して雨天時の傘は持つべきでありましょう。

その16(NEW!):妖怪ビショビショ
傘がビッショリなのはしょうがない。ですが、体全体がビショビショ状態で満員電車に突入してくるのが全身グッショリの「妖怪ビショビショ」です。突然の雨で濡れちゃったのかしら。まるでバケツから水をかぶったレベルでビショビショです。でもねでもね、少しでもいいからハンカチやタオルで水滴を拭きとって。でないとアタシも濡れちゃうじゃない。

その17:妖怪シャカシャカ
もはや説明の必要がないほどのメジャー妖怪がシャカシャカです。イヤフォンからの音漏れがすごい。シャカシャカ聞こえる。ひどい時には歌声まで聞こえる。しかもセンスを疑ってしまうような曲だったりもし、なんだか無性にイライラします。音量は適量でお願いします。そんなに大きな音で聞いてたら、耳にも悪いですよ。

その18(NEW!):妖怪クチャクチャ
ガムを噛んでいるのか、それともエアガム状態なのかは定かではありませんが、とにかく口から「くちゃくちゃ」という効果音を発する妖怪です。耳元でクチャられるとかなりキッツい、という意見もあります。ガムは紙につつんで捨てましょう。

その19(NEW!):妖怪イチャイチャ
満員電車にもかかわらず、公共の場所であるにもかかわらず、べっとりネットリとイチャつくカップル妖怪、それが妖怪イチャイチャです。腰に手を回すのはいい。まだいい。それは許す。だけどオシリをサワサワしてたりするのはヤメてちょうだい。くやしくなるから。そういうことはコッソリやってちょうだい。

その20:妖怪チョーシこき大声会話
友だちと乗車しているのはわかる。会話したいのもわかる。だけど声が大きいの。みんなに聞こえるような大きさで会話しないでいただきたい。しかもその会話が、青臭くてチョーシこいてる風だったりすると、聞いているこっちまで恥ずかしくなるからマジでカンベンしてほしいの。若い妖怪が多いです。

その21(NEW!):妖怪ナナメつり革
目の前に使っていないつり革があるにもかかわらず、あえて斜め前方向のつり革を使う妖怪、それが「妖怪ナナメつり革」です。まるで自分の目の前にあるラーメンには手を付けず、隣の人のラーメンを箸でつまむような、そんな感じなのです。もしもナナメつり革されてしまったら、3つの選択肢が残されています。1、どこにも捕まらずガマンする。2、自分の横のつり革があいていたら、あえて斜め前方向のつり革を使い、自分も妖怪ナナメつり革になる。3、クロスカウンターで対抗する。……あなたならどうしますか? つり革クロスカウンター、ちょっとかっこいいかも。

その22(NEW!):妖怪ケータイ
普通の電車内なら全然OK。しかし、下敷き一枚通らないレベルの満員電車でケータイをいじくる妖怪が「妖怪ケータイ」です。遭遇者の情報によると、満員電車なので、背中などに携帯電話が当たるといいます。それがすっごくウザいんだとか。満員電車のなかではケータイいじりをガマンしたほうが良いかもしれません。

その23(NEW!):妖怪ゲーマー
満員電車のなかでも、PSPやニンテンドーDSなどの携帯ゲーム機で遊ぶ妖怪です。普通の電車なら全然オッケーなのですが、満員なのにプレイしようとする恐るべきゲーム魂をもった妖怪です。ネットユーザーからは「憐れみすら感じてしまう。そこまでしてゲームしたい?」との声も。

その24:妖怪床しゃがみ
満員電車になる前の車両に乗り込もうとしたときに出現する、うんこ座り状態で床に座っている妖怪です。体の調子が悪いのなら仕方ないのですが、明らかに体の調子はピンピン、ちょい不良系の妖怪が床に座ってケータイをいじくったりしています。まるで自分の部屋のように。たのむから立ってちょうだい。みんなに迷惑かけないで。

その25(NEW!):妖怪食いしん坊
これは満員電車では少ないかもしれませんが、電車内で飲食をする妖怪です。スナック菓子やジュース、ひどいときには棒アイスを食べていたりもします。なかには、さっき買ってきたパックの餃子や、お持ち帰りの牛丼を電車内で食べてしまう強者もいるそうです。

その26:妖怪フタ
人気ナンバーワン、圧倒的な支持を集める妖精に近い妖怪です。この妖怪は、ほとんど害はありません。ただただ、ドア側が好きなだけという妖怪です。発車直前までドア脇に待機して、閉まる直前にドア上部の縁を持ちながら背中から乗車してくるテクニシャンです。つまりは乗客のアンカーです。フタ的な役割をします。降車時には、たいてい一度はホームに降りてくれるし、常識のある妖怪です。

その27(NEW!):妖怪MacBook Air
主に座席シートに出現する、とてもオシャレな妖怪です。まったく無害の、妖精に近い妖怪です。ひざの上にはMacBook Airが載せられており、タッチパッドをグリグリといじくりながら、何らかの作業をしています。とても「遊んでいるようには見えない」のが一番の特徴。チョー真剣。お仕事なのかしら?

その28:妖怪すかしッ屁
許されざる妖怪、それが「妖怪すかしッ屁」です。満員電車であるにもかかわらず、音のないオナラをします。ものすごく臭いのに、誰がしたのか分からない。あの人では? いいや、あの人……? と、乗客は疑心暗鬼になってしまいます。最悪なのが、爆心地が自分のお尻付近というパターンです。つまりは背中合わせの押しくら饅頭状態で、後方にいる誰かの尻から放屁されたというパターンです。自分自身にもスカシ疑惑がかけられて、ふんだり蹴ったりの状態になります。オナラは生理現象ですが、満員電車ではガマンするようにしてください。

その29(NEW!):妖怪スメリー系
この妖怪は、実は非常に多いのですが、しょうがないといえばしょうがない系の妖怪です。発するのはニオイです。ユーザーからは口臭という意見が最も多く、「妖怪クチクサイ」に困っている方が目立ちます。ひどいときには「マスクしてても臭ってくる口臭」なんかもあるそうです。また、口臭のみならず体全体からタバコのニオイを漂わす「妖怪ヤニ」や、その名の通りの「妖怪ニンニク」、どうしようもないけれど「妖怪加齢臭」なんてのもいるそうです。これら妖怪は、スメリー系に分類されます。どうしようもないのですが、ニオイは生きてる証でもあります。受け入れることも大切です。

その30(NEW!):妖怪連結間
なかなかレアな妖怪です。この妖怪連結間(ようかいれんけつかん)は、電車の車両と車両の間にある、連結部に生息します。ギューギューの満員電車よりも、誰もいない連結間。車両から車両へ移動する連結部のドアに挟まれた、自分だけのくつろぎ空間……。この連結部にずーっと立っているのは安全性の面からどうかと思いますが、たまに見かけるレア妖怪、それが妖怪連結間です。

その31(NEW!):妖怪泥酔
酔っ払うのは仕方のないこと。ですが、立てなくなるレベルで酔っ払っているのが「妖怪泥酔」です。人によっかかってくるのは序の口で、ひどい時には満員電車のなかでグチャ~っと床に崩れ落ちたりもします。もしかしたら、オブゥェェェロェロと吐いてしまうかもしれない……と、まわりの乗客は気が気ではありません。もしも偶然、目の前に妖怪泥酔がいたとしたら、運が悪いと思ってあきらめてください。

その32(NEW!):妖怪短気
ちょっとしたことでブチギレまくる妖怪です。妖怪短気が2人そろったらもう大変。満員電車のなか、「押すな」だとか「足踏んだ」だとかで密かな小競り合いが始まっておりまして、停車駅についた瞬間に「なんだこのやろう!」と、どちらかがブチギレて「なんだこらー!」と口論開始。あまりの恐怖に、車内の空気は凍りつきます。しかも発車時間が遅れたりもするオマケ付き。やるんだったら、どこか遠くで静かにやってください。

(文=長州ちなみ / イラスト=テリーヌ富士子
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