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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは正統派ドキュメンタリー映画『夢は牛のお医者さん』(3月29日公開)です。TeNYテレビ新潟が、ひとりの少女の夢の始まりから現在に至るまでの26年間を追いかけたドキュメンタリー映画です。

【物語】
1987年、新潟の山間の小さな小学校に牛が3頭やってきます。小学3年生だった高橋知美さんと同級生たちは、一生懸命牛のお世話をします。生徒たちは牛と友だちになりますが、やがて別れが。号泣する知美さんたち。

でもこの牛との出逢いをきっかけに知美さんには夢ができました。「獣医さんになる!」その夢は変わることなく、彼女は中学、高校と進み、そして獣医になるために大学受験、国家試験と次々と難関にチャレンジすることになるのです。

【話題のドキュメンタリーが遂に映画化】
TeNYテレビ新潟が制作したこのドキュメンタリーは「ズームイン!!朝」などの報道番組や「NNNドキュメント」などで放送され、大変な好評を博した作品です。ひとりの少女の26年間の記録は、夢や希望だけでなく、家族とも絆もしっかり映し出されています。ただひたすら夢の実現に向かって一歩一歩進んでいった知美さんの成長の記録には、多くの人から感動の声が届いたそうです。

【監督が語る製作秘話】
時田監督と知美さんの出逢いは、素朴な木造校舎の小学校に牛が入学するという取材でした。この取材で、知美さんを含む素朴でピュアな9人の児童のファンになった時田監督は、その牛の卒業式も密着取材。そして、この学校が廃校になるかもしれないと知り、取材を継続しようと決めたのです。

「最初から知美さんをクローズアップしていたわけではないのです。彼女の「獣医になりたい」と言う夢は知っていたけれど、子供の夢だと思い込み、廃校したあと4年間は会っていませんでした。その後、電話をしてみたらご家族から、親元を離れ、遠い高校に下宿しながら通い、獣医を目指して猛勉強しているとを知り、彼女の夢を本気で受け止めなかった自分を恥じました。そこから、彼女の夢に密着しよう、見届けようと思ったのです」

密着取材について、知美さんにお願いされたことはひとつ。「大学に落ちたら放送しないでね」ということ。でも結果、放送され、映画にもなったわけですから、結果はおのずとわかりますがそのプロセスは容易ではありません。お父さんだって最初は反対していましたからねえ。だからこそ、大学受験や国家試験のシーンは、見ている方もドッキドキですよ。もう記者なんてすっかり知美さんの家族気分でハラハラしてしまいました!

【震災にあった人達へ夢と希望と勇気を】
また時田監督はこうも語っています。

「東北大震災が起こり、新潟にも多くの方が避難してきました。そんな方々にこのドキュメンタリーを見てもらいたいと思ったので映画という手法を使いました。被災地はもちろん全国の方に見てもらいたかったのです。社内では「無理だ」という声もありましたが、知美さんの生き方を見続けて「はなから諦めるのではなく、挑戦する」ことが大事だと彼女から教わりましたから。夢の続きだけでなく、家族、故郷、仕事の喜びと現実を加えて26年間を描こうと思ったのです」

やる前から大変そうだと諦めてしまったり、夢の途中でくじけて放り出しそうになったりすることは誰にでもあると思います。でも、この映画を見れば「もうちょっと頑張ってみよう」と思えるはず。また、ただ夢を実現するだけでなく、知美さんは獣医として夢の恩返しをするところも素敵。故郷の人々に頼りにされる存在になるのですからね。

新潟の大きくて高い青空、深い緑、木造のかわいい小学校はほのぼのさせてくれますし、お年寄りも子供も一緒に雪にたわむれて遊ぶ姿、その笑顔にも癒されます。ぜひ凹んだときに見てほしい。必ず勇気と癒しを同時にくれるし、何よりやる気にさせてくれる映画です。
執筆=斎藤 香(c) Pouch

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『夢は牛のお医者さん』
2014年3月29日公開
監督: 時田美昭
ナレーション: 横山由依(AKB48)
(C)TeNY