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[公開直前☆最新シネマ批評・インタビュー編]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品の監督を直撃インタビューします。

今回インタビューしたのは映画『さいはてにて~やさしい香りと待ちながら~』(2015年2月28日公開)のチアン・ショウチョン監督です。この映画は日本映画ですが、監督は台湾の女性監督。映画の舞台は奥能登で、台湾の役者さんが登場することもなく、「なぜ台湾の女性監督が?」と誰もが思うはず。そこには東北大震災に端を発するエピソードがあり、またこの映画に登場する女性たちの姿が国境を超えているのです。

【物語】

東京から奥能登の海辺の小さな町にやってきた岬(永作博美)。両親の離婚以来会っていない、行方不明の父を待つために海辺に焙煎珈琲の店を開きます。彼女の店の近くには休業中の民宿があり、シングルマザーの絵里子(佐々木希)と二人の姉弟が暮らしていました。生活の為に金沢まで働きに出る絵里子は小学生の子供二人を置いて、ときどき家を空けています。母に心配かけまいと給食費の滞納を言い出せない姉の有沙(桜田ひより)。そんな有紗と弟にやさしく接する岬。でも絵里子はそれをよく思わないでいたのです……。

【東北大震災を乗り越えた映画】

チアン・ショウチョン監督は、台湾の名匠エドワード・ヤン監督作『牯嶺街少年殺人事件』に出演していた元女優。ヤン監督やホウ・シャオシェン監督のもと演出を学び、台湾映画界で作品を発表し、活躍をしてきました。その作品を見たこの映画のプロデューサーがこの作品の監督に彼女を抜擢したのです。

「台湾までプロデューサーが私に会いに来てくれました。実はその日は……忘れもしません、東北大震災が起こった日だったのです。プロデューサーは家族の安否確認の電話をされていました。そのとき、このプロジェクトは陽の目を見ないだろうなと思っていました。でも、日本があのような大変な状況でも、プロデューサーとはメールのやりとりが続き、次第にこのプロジェクトはまだ消えていないんだと感じたのです」

プロデューサーに熱心に監督依頼をされていたショウチョン監督ですが、ずっと心は揺れていたそうです。

「あのような大震災が起きてしまい、これはきっと神様が映画作りはやめなさいと言っているのではないかと思ったのです。でも、もしかしたら、今だからこそ、みんなを癒す映画を撮りなさいと言っているのではないかと思うようにあり、これはやるべきだと考えなおしたのです」

ところがまたまたこの映画の撮影は延期を余儀なくされます。

「主演の永作博美さんが妊娠されたのです。震災でプロジェクトが延期になり、主演女優のおめでたで延期になり……。私はこの映画は完成するのだろうかとずっと思っていました。だからプレミアを迎えたときは、信じられなかったですね(笑)」

【日本の女性と台湾の女性の共通点】

『さいはてにて~やさしい香りと待ちながら~』は、父の故郷にやってきた女性とシングルマザーの女性、ふたりの女性の人生が交錯し、理解を深めていく物語です。たったひとりで父を待つ岬、二人の子供を女手一つで育てる絵里子、二人とも忍耐強さがチャームポイントでもあります。こういった日本女性の個性をショウチョン監督は

「台湾の女性に似ていますね。日本女性との共通点かなと思います。ただ岬も絵里子もそれぞれ強さが違うのですね。岬の強さは焙煎珈琲の店を営む自立した女の強さ、ひとりでも大丈夫という強さです。絵里子の強さは母である強さ。でも二人の強さは全世界共通なんじゃないかとも思います」

岬は東京での成功を捨てて、海辺の町にやってきます。東京から地方へというと「夢や破れて帰郷」という負のイメージがついてまわりますが、ショウチョン監督は「岬の場合は違いますよ」と。

「彼女の場合は父の故郷に来ることは、新しい一歩なのです。彼女は一般的ではない価値観を持っている女性です。みんなが、お父さんは見つかるわけない、待ってもしょうがないと言っているのに待つ!と言い、実行に移します。彼女はすべてを投げ出したわけではなく、父の故郷で新しい人生を切り開こうと思ったのです。また彼女は結婚願望もありません。最近は台湾の女性もそういう生き方を選ぶ人多いです。そこもまた共通点かもしれません」

【正反対の性格の方が友情を築きやすい?】

岬と絵里子、最初は対立しますが、徐々に距離を縮めていきます。でもこの二人は正反対の性格。岬は自立したしっかり者で、絵里子は自立しているけど流されやすい女性です。

「絵里子は自分の人生をこうしようと自覚を持っていません。流されるままに生きているのでしょう。でも子供を産む、母になることは自ら選びました。子供を受け入れて生きていくところが彼女の魅力ですね。彼女も根は強いです。あのまま子連れで台湾に来てもやっていける(笑)。この映画は、そんな相容れない二人の関係が転換していくのが見所です」

違うからこそ面白いってことありますよね。物の見方や対応の仕方など正反対の性格から学ぶこともあるはず。そんな女二人の関係が自然に描かれているのがこの映画です。

東京から父の故郷へと移り住んだ女性のひとつの生き方を描いた『さいはてにて~やさしい香りと待ちながら~』。こういう生き方もありだな……としみじみ感じさせる映画です。
取材撮影・執筆=斎藤 香(C)Pouch
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『さいはてにて~やさしい香りと待ちながら~』
2015年2月28日より、新宿バルト9、渋谷シネパレスほか全国ロードショー)
監督:チアン・ショウチョン
出演:永作博美、佐々木希、桜田ひより、保田盛凱清、臼田あさ美、イッセー尾形、村上淳、浅田美代子、永瀬正敏ほか
(C)2014「さいはてにて」製作委員会