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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのはゴシックホラー映画『クリムゾン・ピーク』(2016年1月8日公開)です。

新年早々、赤毛のエロ人形の映画を紹介したと思ったら、今度はゴシックホラー……でも「パシフィック・リム」で話題となったギレルモ・デル・トロ監督の最新作ですから、これを放っておく手はない! エグくて美しい恐怖世界を展開していますよ。

ではストーリーから行ってみましょう。

【物語】

10歳の時に死んだはずの母親を目撃して以来、幽霊を見るようになった女性、イーディス(ミア・ワシコウスカ)。富豪の父と暮らしていた彼女は、トーマス(トム・ヒドルストン)と出会い、彼に心惹かれ、トーマスもイーディスに好意を示します。
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その後、父が謎の死を遂げ、イーディスはトーマスと結婚。彼の屋敷で暮らすことに。トーマスのゴシック建築の壮大な屋敷には、姉のルシール(ジェシカ・チャステイン)も住んでいました。
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結婚してからのイーディスは孤独でした。新婚気分を味わうどころか、夜中にトーマスはどこかに行ってしまうし、ルシールには監視されているような気が……。そして彼女は、屋敷内で血まみれの霊を見るようになるのです。
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【暗黒のおとぎ話の元ネタは古典文学】

ギレルモ・デル・トロ監督といえば、『パンズ・ラビリンス』『パシフィック・リム』など豊かなイマジネーションを駆使した幻想的なホラーやアクションサスペンスなどを放ってきた人気監督。そのデル・トロ監督作で、最も美しいと評価されているのが『クリムゾン・ピーク』です。

監督はこの映画についてこう語っています。

「この物語は、ディケンズの「大いなる遺産」やブロンテの「嵐が丘」デュモーリエの「レベッカ」などの古典からインスピレーションを受けている。これらの物語はいずれも恐怖を隠し持っているからだ。ゴシックロマンの小説を読むと、そこにはラブストーリーとともにスーパーナチュラルな要素があり、心の底からゾっとするシーンがある。これらを合わせると美しくて豪華な映画ができるんだよ」

なるほど~。確かにクラシックな雰囲気は全編にあり、その中で現れる恐怖は序盤からジワリと心に忍び寄り、やがて何かが起こりそうな空気が高まり、それがどんどん恐怖に変わっていくのです。

イーディスが屋敷で暮らすようになってから、その恐怖の足音は大きくなっていきます。観客はイーディスとともにゴシック建築の屋敷に飲み込まれるように恐怖体験をしていくのです。

【恐怖は美しいものでなくちゃね by デル・トロ監督】

この映画の主役はイーディスといいたいところですが、実は屋敷ではないかと思います。彼女がこの屋敷に足を踏み入れたとき、観客は「ホーンテッドマンション?」と思うでしょう。あの東京ディズニーランドにあるお化け屋敷のよう。ガイコツが舞踏会で踊っているような……。

イジョーに天井が高く、崩れ落ちそうに古いけれど、歴史を感じさせる重厚さがあり……ただやっぱり不気味で、壁のシミなどに「血?」とか思ってギョっとしたりして。

また、衣裳も美術の一部になっているんですよね。イーディスの衣裳は前半と後半ではかなり変化を見せますが、それは彼女の精神状態が弱っていく証なんです。前半と違い、後半は体が弱ってしまって髪を結いあげることもなく、ほとんど白いナイトドレス。

一方、義妹の行動を監視するルシールは、ダークな色彩のドレス。後半に「え!」という展開になり、肌も露わになりますが、それまでは襟をキチンと止めてお堅いイメージ。

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デル・トロ監督は

「ルシールはいろんな意味で、屋敷を着ているんだ」

と言っていますが、その言葉は映画を最後まで見るとわかります。

もともとヴィジュアルにこだわりがある監督なので、美術、衣裳には細かい設定を作って実現したそうです。映画に登場する幽霊も、ただ脅かす霊ではなく、意志を持ってそこにいるような……。

デル・トロ監督曰く

「恐怖は美しいものじゃなくちゃね」

確かに! そしてこの映画に横たわるのは愛だと言うことも忘れてはいけません。イーディスを恐怖に陥れるのは狂気の愛、そして彼女を救うのもまた愛なのです。

これは女性向けのゴシックホラー映画、デートムービーとしてもイケるけど、女性同士で見ても、ひとりで見ても楽しめるはずですよ。

執筆=斎藤 香(C)Pouch

『クリムゾン・ピーク』
(2016年1月8日より、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー)
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:ミア・ワシコウスカ、ジェシカ・チャステイン、トム・ヒドルストン、チャーリー・ハナムほか
(C) Universal Pictures.

▼映画『クリムゾン・ピーク』予告編