【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、ギレルモ・デル・トロ監督作『シェイプ・オブ・ウォーター』(公開中)。本年度のアカデミー賞で13部門にノミネートされている超話題作です。

デル・トロ監督の映画は『パンズ・ラビリンス』のようなダーク・ファンタジーもあれば、『パシフィック・リム』のようなSFアクション映画もあります。けれども、一貫してリアリティの逆をいき、スクリーンに魔法をかけることのできる監督です。

しかし美麗なだけではなく、ホラーな面も垣間見られるのが特徴。映画『シェイプ・オブ・ウォーター』も同様で、異形なものとの恋愛を描いた美しいダークロマンスなのです。(以下、ネタバレを含みます!)

【物語】

声を発することができないイライザ(サリー・ホーキンス)は、アメリカ政府の機密機関である航空宇宙開発センターで清掃の仕事をしています。そこに研究材料としてアマゾンの奥地から ”不思議な生き物”(ダグ・ジョーンズ)が運ばれてきました。

イライザはその ”不思議な生き物”に興味が沸き、たびたび会いに行きます。手話を教えながらコミュニケーションを取るうちに、特別な気持ちが芽生えていくイライザ。

そんなとき、威圧的な軍人のストリックランド(マイケル・シャノン)は、”不思議な生き物” を虐待したあげく、生体解剖をすると宣言。イライザは「彼を救わねば!」と、”不思議な生き物” を研究室から運び出そうとするのです。

【美しい世界に映し出される異形】

最初に ”不思議な生き物” を見たとき、私は正直、「ヒロインはこの半魚人と恋愛するの?」とギョッとしました。

人間らしいのはその体の輪郭のみ。魚みたいな目、ウロコの皮膚、ヌメっとした肌の質感、小さな口は人間と魚の中間にあるようで、半魚人が実在したら、こうだろうと思えるようなリアルさだったからです。

でも映像は素晴らしく、冒頭の水中シーンからヴィジュアルで心をわしづかみにされます。だからこそ ”不思議な生き物” のリアル半魚人が余計グロテスクに映るのです。この完全なる美の中に異物が紛れ込んだ世界観が、まさにデル・トロ作品なのでしょう。

【ありのままを愛する心を共有するカップル】

イライザと ”不思議な生き物” は運命の出会いだったのだと思います。イライザはずっと彼のような人を待っていたのです。

言葉を失い、他者との意思の疎通が難しい彼女は、恋愛をほぼ諦めていたはず。そこに現れたのが、”不思議な生き物”の彼。イライザと同じように言葉を持たない彼とアイコンタクトで通じ合い、彼女が手話を教えることで、二人は徐々に距離を縮めていきます。

人間の世界に引きずり込まれ、孤独かつ傷つけられていた彼にとって、イライザは女神だったでしょう。そして彼女にとっても、”不思議な生き物”の存在は喜び。だって初めてありのままの自分を受け入れ、愛してくれる人と出会えたのですから。

二人が心を通い合わせていく姿を見ているうちに、だんだん”不思議な生き物”のヴィジュアルが気にならなくなってきました。「イライザに幸福になって欲しいな」と祝福の気持ちが沸き上がってくるのです。

【二人の愛を阻むのはドス黒い人間の野心】

これまでも異形との愛を描いた映画は多くありました。『美女と野獣』や『シザーハンズ』、『オペラ座の怪人』『トワイライト』『ぼくのエリ 200歳の少女』など。

でも、これらのラブストーリーは、片方が異形であることが周囲にバレたり、異形であることで差別を受けたり、身を隠していたりという障害がありました。

本作の二人の障害は、ひとりの人間です。それは ”不思議な生き物” を生体解剖して、自分のキャリアに利用しようとする鬼軍人ストリックランド(マイケル・シャノン)。この男が人間の膿を濃縮させたような嫌な男で、”不思議な生き物”を虐待して楽しみ、イライザにも差別的なセクハラ発言をして本当に下品で腹が立つ男なんですよ!

あるとき、ストリックランドは ”不思議な生き物”に虐待の報復をされて指を負傷するのですが、この指がどんどん真っ黒に変色していくのです。指が腐っていくのに従って、男の心もどんどん腐り、”不思議な生き物”を追いこんでいく……。

イライザと ”不思議な生き物” の愛が純粋ゆえに、この男のドス黒さは強烈です。

【異形の世界で愛を成就する新しいラブストーリー】

イライザは、ストリックランドに追われる ”不思議な生き物”を逃がすために彼を連れて運河へ向かいます。”不思議な生き物” とのお別れを予感させますが、この映画が凄いのはここからです。

イライザは異形の彼との運命を選択するのです。水の中で彼との愛を貫くんですよ。

ストリックランドとの追いつ追われつのスリル、銃撃戦で血まみれなど壮絶なシーンのあとにやってくる、本作でいちばん美しく異色なラブシーンには完全に心を持っていかれましたね。完璧。

アカデミー賞13部門候補にも納得! デル・トロ監督にしか作りだせない異形と女性による大人のおとぎ話は、大人の女性にこそオススメです。




執筆=斎藤 香 (C) Pouch

『シェイプ・オブ・ウォーター』
(2018年3月1日より、TOHOシネマズ日本橋ほか全国ロードショー)
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、ダグ・ジョーンズ、マイケル・スタールバーグ、オクタヴィア・スペンサーほか
(C)2017 Twentieth Century Fox

▼『シェイプ・オブ・ウォーター』日本版予告編