【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、田中圭主演映画『mellow』(2020年1月17日公開)です。『愛がなんだ』『アイネクライネナハトムジーク』の今泉力哉監督の最新作。本作は今泉監督のオリジナル脚本による作品です。

田中圭が『劇場版おっさんずラブ~LOVEorDEAD~』とは全く別の顔を見せていますよ。

【物語】

花屋「mellow」と営む独身男性の夏目誠一(田中圭)は、好きな花に囲まれた穏やかな毎日を送っています。その花屋にしょっちゅう顔を見せるのは、姪っ子のさほ(白鳥玉希)や近所の美容室の娘・宏美(志田彩良)。常連客の人妻・麻里子(ともさかりえ)のもとには花を届けています。大好きな花の仕事が楽しくて仕方がない誠一。そんなある日、麻里子のもとに花を届けに行った際、彼女から思いもよらぬ告白をされてしまうのです。

【『おっさんずラブ』とは真逆の魅力を放つ田中圭】

田中圭といえば『おっさんずラブ』というくらい、現時点での彼の代表作になっています。バラエティで見せる弾け方と面白さも含めて、いまの田中圭人気は出来上がったと思うのですが、役者・田中圭さんは、実に出演作が多く、幅広いキャラクターを演じられる力もある人です。

そんな田中圭さんの役者としての魅力をじっくり味わえるのが本作『mellow』の花屋のにーさん。どうしても『おっさんずラブ』の熱い演技がイメージとして定着していますが、この映画の田中圭さんは、最初から最後までホンワカホンワカ、ポカポカの陽だまりみたい。包まれた~いという感じなのです。

【全員片思いのラブストーリー】

本作は、田中さんが演じる誠一が営む花屋「mellow」を中心に物語が展開していきます。常連客である美容師の娘の彩良は誠一に思いを寄せており、「mellow」に花束を買いに来る中学生女子は、その彩良に片思いという一方通行ラブが展開されていきます。

そんな彼女たちの可愛さと対局しているのが、人妻の麻里子。お金持ち家庭の奥様である彼女は、家の玄関に花を生けに来てくれる誠一に片思い。ある日、ダンナも在宅している最中に「花屋さんのことが好き!」と仰天告白して、夫婦関係に亀裂が。ただ花を生けに来ただけで巻き込まれてしまう誠一のポカン顔が忘れられません! 

穏やかで平和な日常が描かれる中、人妻の麻里子のエピソードだけ突出して怖いというか滑稽で、麻里子を演じるともさかりえさんの怪演は見もの。「メンタル大丈夫か!?」と心配になるレベルでしたよ。

【終始受け身の芝居に徹する田中圭】

メロウな日常を愛する男・誠一さんはモテモテですが、この映画が凄いのは、恋の進展が何もないというところです。誠一は花屋だけに草食系なのかもしれませんが、少々、物足りなさも感じます。で、気になるのは「じゃあ、誠一さんは誰が好きなのよ」ってこと。

彼はいつも行くラーメン屋の木帆(岡崎紗絵)が気になっている様子なのですが、メロウな男は恋愛にガツガツしません。このように終始、田中圭さんは受け身の芝居で、花屋にやってくる女性たちの話に耳を傾け、笑顔を向けてくれる。まさに花屋のプリンス的な存在なのです。

【日常の平和とイケメンな田中圭を楽しむ映画】

大きな事件も起こらず、ゆる~く流れていくほんわかした時間の中、ハっとさせられるのは花束を作る田中圭さんです。指がキレイで思わずうっとり……。この映画は、田中圭さんをじっくり見つめて、その魅力を再確認できる作品。

弾けまくっている彼も楽しくて素敵だけれど、大人の男性としての静かな佇まい、テレビでもあまり見られない一面を見られる映画として貴重かもしれません。『おっさんずラブ』より田中圭さんのイケメン度は高いので、ますますファンになる人が増えるかもしれませんね!

mellow
(2020年1月17日より、新宿バルト9ほか全国ロードショー)
監督:今泉力哉
出演:田中圭、岡崎紗絵、志田彩良、松本エレナ、白鳥玉季、SUMIRE、山下健二郎、ともさかりえ、小市慢太郎