超ポジティブな心の癒し方をイカれたカップルが伝授!? アカデミー賞候補『世界にひとつのプレイブック』【最新シネマ批評】

[公開直前☆最新シネマ批評]映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、2月22日に公開される『世界にひとつのプレイブック』です。本年度アカデミー賞作品賞ほか主要部門の候補になっている話題作。この映画はロマンチック・コメディなのですが、一風変わっているのは主役カップルが心に病を抱えているということです。

普通、そのような病を笑い飛ばすのは不謹慎と真面目にきちんと向き合う映画が多いのですが、本作はコメディとして笑わせながら、病を超えて、家族、夫婦、男女関係の本質を描いて、しっかり感動させてくれます。特にイっちゃっている主役のふたりがとても魅力的！　演じるブラッドリー・クーパーとジェニファー・ローレンスは、仲良くアカデミー賞主演賞候補になっていますが、それも納得です。

パット（ブラッドリー・クーパー）は妻の浮気を目撃して心が壊れ、浮気相手をボッコボコに殴ってしまい入院。なんとか退院が決まりましたが、妻は夫に接近禁止令をだし、ふたりの家を売って出て行ってしまいました。傷心の彼は、実家で両親と暮らすことに……。そんなパットを友人がディナーに招いてくれます。そこで出逢ったのが、友人の妻の妹ティファニー（ジェニファー・ローレンス）。

初対面から感じ悪いと思ったら、パットをベッドに誘ってきたり、ティファニーの言動は支離滅裂。実はティファニーも夫を交通事故で亡くして以来、心が壊れていたのです。出逢って以来、ケンカを売るようにパットに接して来るティファニーに困惑するパット。でも、ティファニーに優しくすれば、妻の友人から「妹に優しいの。彼は回復したわ」と、妻に伝わり「寄りが戻せるかも!」と思ったパットは、ティファニーとコミュニケーションを取ろうとしますが……。

心の病は深刻で、目に見えない分、とてもデリケート。でも、この映画のパットとティファニーはのっけから、強烈！　パットが「武器よさらば」を読んで、ヘミングウェイの悪口を言いながら怒りだすシーンは可笑しいし、ティファニーがジョギングをするパットを追いかけて「なんでうちの近所を走るのよ！」と悪態をつきまくるシーンも笑える。待ち伏せしていたんじゃないの？　みたいな。ふたりの丁々発止のやりとりが、病を吹き飛ばす活気あるシーンを作りだしています。

ある程度、このような心の病に詳しくなければ、コメディとして演出するのは難しいのではと思ったのですが、実はデヴィッド・O・ラッセル監督の息子さんが躁鬱症なのです。ラッセル監督は、マシュー・クイック著の原作を読んで興味と共感を抱き、さっそく脚色に取り掛かったそうです。心に痛みを抱えながらぶつかりあう主人公の男女が、闘いながら、何とか希望の光を掴もうとしている姿には、監督のエールが込められているのでしょう。だから心熱くなる感動があるのですね。

ちなみにこのティファニー役はハリウッドの若い女優の間で争奪戦となりました。そしてジェニファー・ローレンスが手を挙げたとき、ラッセル監督は迷ったそうです。「ブラッドリー・クーパーの恋人役をやるには彼女は若すぎるし、演技経験が浅いじゃないか」と。ところがスカイプでオーディションを行い、ジェニファーを見たとき、監督は絶賛。「他の女優とは別格！圧倒された」とジェニファーを大抜擢したのです。

その期待に応えてジェニファーは大健闘！　各映画賞レースでも主演女優賞を受賞してノリノリです。そして忘れちゃならないのが、名優ロバート・デ・ニーロ！　デ・ニーロはチーズステーキ店の開業資金を集めるために、アメフトのノミ屋をやっているというパットの父役。息子を心配する父の姿は、どこにでもいるお父さんで、アメフトの結果にヤキモキする姿はどこか可笑しい……と思ったら、後半の見せ場で、一気に場をさらってしまいます。あれはさすがでしたね～。この映画でデ・ニーロはアカデミー賞助演男優賞候補になっていますが、そりゃそうでしょって感じですよ。

25日（日本時間）に発表されるアカデミー賞では、作品・監督・主演男優、主演女優・助演男優・助演女優・脚色・編集と主要部門コンプリート候補に！　心が温かくなり元気にしてくれる要素がいっぱいつまっているロマンチック・コメディ、オススメですよ。
（映画ライター=斎藤香）

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