去る4月9日(木)に発売された、今日マチ子さんによる新刊「ニンフ」(太田出版)。
震災後の世界を生きる、12歳の美しき少女・ユキの姿を描写。静かに淡々と流れてゆく物語、しかしながら随所で感じる、胸を鋭く深くえぐられるかのような衝撃と切なさ、そして悲しみ。
多くを語ることなく、その圧倒的な筆力でユキを、周囲の人々を描き切った物語は、必見です。特にあなたが女性であるならば、なおのこと、ね。
【両親を亡くし大きな屋敷の主人に引き取られたユキ】
「マンガ・エロティクス・エフ」「ぽこぽこ」(ともに太田出版)にて連載されていた同作の主人公・ユキは、震災で父を亡くし、母もまた行方知れずに。瓦礫の山と化した街にたった1人放り出された彼女は、ある日、大きな屋敷で暮らす主人に気に入られ、娘として引き取られます。
【そのうち “子供を身ごもっていた” ことが発覚し……】
主人と美しき妻、そして彼らの子供たち。この場所で、 “マリア” という名前を付けられ大切に育てられたユキでしたが、やがて妊娠していることが発覚してしまうのです。
【ユキはなぜ、妊娠したのか】
しかしながら、ユキがなぜ妊娠したのか、そのことに関する描写はこれまでに一切、登場していません。
【展開される不毛な犯人探し】
毎晩自分のベッドにユキを呼び、一緒に眠っている義理の父親。震災をきっかけに日本における旧来の体制を変えたいと願う、長男の進太郎。毎日のように共にピアノを弾き交流を深めてきた、二男の清次郎。そして屋敷に引き取られる以前、一緒に行動し生活してきた孤児・風太。
【 “マリア” となったユキの、悲しい秘密とは】
彼らの誰かが父親なのか、それともまさか、聖母マリアのごとく、受胎告知のような体験をしてしまったのか。その謎が解き明かされたとき、ぶわっと溢れだした涙を、心の奥底から沸き上がるような悲しみを、記者は抑えることができませんでした。そしてその直前、ユキを快く思っていなかったはずの長女・百合子から発せられた言葉にも、痛く感じ入ってしまったのです。
「あんたはまだこどもよ。必要なのは、赤ん坊じゃなくて親なのよ」
【それぞれの “震災後の世界” を描く】
ひとりになんてなりたくなかったのに、ひとりで生きざるをえなかったユキ。そして実はユキと似た境遇に置かれ苦しんでいた義理母のナオミと、ユキと実母の間にかつて起きていた、とある秘密。震災をきっかけに大きく動き、変わり始めたそれぞれの運命を目撃したそのとき、きっと同書があなたにとっての、「心に残る1冊」になっているはず。
【記者的今年ナンバーワンの1冊です】
ハードな内容と、それに相反するかのような、透明感に満ちた瑞々しく可愛らしいイラスト。今日マチ子さんならではな独自の世界観の力によって、心の深いところまでズシンと訴えてくる珠玉の物語は、記者的に今年最も心に響いた1冊となったのでした。
参照元: ぽこぽこ 、Amazon.co.jp
撮影・執筆=田端あんじ (c)Pouch
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