お絵描きっ子のみんなぁ、集合ーッ! そしてイラストや漫画が大好きな人も集まってくださーい! 今回ご紹介するのは、ずばり「絵や漫画の描き方」です。ただし単なる描き方ではなく、絶対にマネしてはならない禁断とも言えるテクニックです。
講師は本誌でもイラストや漫画を描いているテリーヌ富士子先生。主戦場は雑誌とネット。タッチや作風をチョイチョイと変えて様々なペンネームで活動している、キャリア13年目のイラストレーター兼マンガ家です。
テリーヌ先生いわく「このテクをマネしたら、絶対に絵は上達しません。言ってみれば、ごまかし技のオンパレードです。ただし、イザというときには役立つかも」とのこと。それでは心してお読みください。「絶対に真似をしてはならない9の漫画・イラスト裏テクニック」 です!
その1:『手がうまく描けなかったら、ポッケにつっこめ』
人間を描くとき、なにげに激ムズなのが「手」です。ドラえもんやアンパンマンのような「○」の手にすれば楽なのですが、リアルタッチの絵柄だと違和感が生じます。どうしても手がうまく描けない。どうしても……
……そんな時には、手をポッケに突っ込めば良いといいます。ややこしい手を描かなくて良いからです。また、もしも冬場のシーンだったら「ミトンを付けさせれば楽です」とのことで、「常にボクシンググローブ付けてるキャラにしちゃうってのもアリです」らしい。
その2:『顔を描くのがヘタだったら、読者の視線を顔から遠ざけろ』
漫画やイラストの顔となるのが、描く人物の「顔」です。体は描けないけど、顔は描けるという人も多いのではないでしょうか? だけど、どうしても魅力的な顔が描けない。いい表情が描けない……
……そんな時には、読者の視線(意識)を顔から遠ざけろとテリーヌ先生は助言します。つまりは視線の誤誘導です。たとえば何かをかぶらせたり、ヅラがズレてる風にしてみたり、メガネをかけさせてみたり……と、意識をそっちに集中させます。先生いわく「三億円事件の白バイ隊員みたいなモンです」とのこと。
その3:『困ったときは集中線』
マンガには、さまざまな表現方法があります。スピード感を出すために線を入れる「スピード線」や、コマの枠あたりから中心に放射線状に線が入る「集中線」、暗闇の中から光るような「ベタフラッシュ」などなど。もしも描いた絵やコマに、迫力がない……なんて時は!
――「迷うことなく集中線を入れろ」とテリーヌ先生は助言します。堂々と行け、と。また、描いた背景がイマイチだったりするときも「そのヘタ絵をつぶすように、上から重ねて集中線を入れちゃいます。ヘタクソな背景も、線のあいだあいだから見ると目の錯覚により『ちゃんと描いてる』ように見えるんですよ」らしいです。
その4:『ド派手でドでかい効果音でごまかせ』
すっごいがんばって描いたのに、どうしてもイマイチな完成度。迫力もないし、絵がヘタってことがモロバレしちゃう……そんな時は「迷うことなく効果音です。それもド派手でデッカイ効果音です」とテリーヌ談。
さらにテリーヌ先生は続けます。「そこに文字があったら、人間という生き物は意識せずに文字を追うものだと私は思っています。だから、文字に目を行かせちゃう。絵に自信がないからね。リアルに例えると、自分の容姿に自信がないからデッカイ声で話すような感じ」らしいです。なんだか哀愁ただようテクですね。
その5:『全力を出すな。気合いを入れるのは1コマだけでいい』
これはテリーヌ先生が若い頃に通った、都内の某マンガ専門学校の講師から教えてもらった直伝のお教え。いつも全力を出しきっている、尊敬すべき漫画家の大先生たちからしてみればブン殴りたくなる教えですが、教えてくれた講師もプロ漫画家(ホラー漫画系)だったといいます。
……その講師の先生は、「どうしても時間がない時って、プロの世界なら、よくあるんだ。そんなときは、とにかく1コマだけはちゃんと描け。あとは流してもいい。やむを得ない。1コマ精密な絵があると、そのページ自体も精密に見える……と俺は思っている」と語っていたらしいです。つまり、その力を入れたコマに読者の意識を集めろということです。
その6:『黒く塗れ。描いたように見せろ』
描いているのに真っ白な原稿。それはそれでアリですし、それもそれで美しいですが、全体的な白と黒のメリハリをつけると「描いてる感」が出るといいます。たとえば最初は白、いきなり黒で、黒、黒、白……みたいな具合。特にこれといった背景などは描いていないのに、なんとなく素人臭さは消えてしまいます。
テリーヌ先生いわく「黒く塗るだけじゃなくて、円で切り取ったり、円で切り取ったり、円で切り取ったり……って円で切り取ってばかりですが、そんなテクもいいですね。要は『息を抜くコマで息を抜く』ということです。さらに『手抜き感』をごまかす。ごまかすことばかり考えて13年、ごまかしだらけの人生です」とのこと。
その7:『なにげない絵はストックして何度も使え』
さあ出ました、コピー技です。一度描いた絵で、イイ感じだなと思ったものは、迷わずストックしておけとテリーヌ先生は力説します。「もったいない精神です」とマジメに語っていましたが、「めんどくさい精神」と半々なような気もします。要するに、一度描いた絵を、何度も何度も使うという使い回しテクニックです。
ポイントとなるのは、「そこまでインパクトのない絵」であること。読者の記憶にない絵であるというのがキモだそうです。なにげない絵だったら、読者の目に留まるのはほんの一瞬。走っている電車から見える景色のようなもの。そこにあるのに、記憶にない。それがキモであると。ちなみに、コピーテクを駆使してギャグにする作家さんといえば、漫☆画太郎先生が有名ですが、テリーヌ先生の場合は「ギャグじゃなくて完全なるごまかし」であるそうな。
その8:『どーしよーもなかったら、文字を追わせる構成にしろ』
もう絵を描く気力も体力もない。なんで漫画家になんてなっちまったんだコンチクショー。でも〆切はやってくる。時間よ止まれ。時間よ、とまれーッ! ……と、おそらく99%の漫画家は思ったことがあるといいます。そんな時、テリーヌ先生は「文字追わせ(別名:カエル飛ばし)」のテクを使うといいます。カエル池のカエルが、葉っぱから葉っぱへピョンピョンと飛び移るように、セリフだけを追わせてしまうという、テリーヌ先生が勝手に考案・命名した手法です。
それじゃあマンガの意味がないじゃないか! とお思いの人もいるでしょうが、同じ文章でもマンガのコマに配置すると、全然違う印象を受けます。しかしながら、このテクを使ったときのマンガのコマの中の絵は、完全なる捨てカット。「急行における各駅停車駅みたいなもんです。マジシャンも、見せたくないものがあるときは、空いている手を派手に動かして観客の意識を遠ざけますよね。さらに話術で引っ張っていく。それを漫画の中でやっているのです」とテリーヌ先生は語ります。
その9:『写真そのまま使え』
最近のパソコン用マンガソフトには、写真を絵にする(トーンにする)機能なんてのも付いています。また、それ以前からも、普通の画像編集ソフトを使い、写真のコントラストなどを調整して背景として使う漫画家さんもいました。だがしかし。テリーヌ先生は違います。「そのまま使え」と言うのです。「トレースして味がなくなるくらいだったら、そのまま使っちゃえばいいじゃない。一発で『それ』と認識されてオトクですよ」と。
さらにテリーヌ先生は力説します。「そりゃ私だって、ちゃんと背景を描くのが普通ですよ。基本はテキトーな背景を描いています。でも、たとえば『渋谷の街』とかだったら、その写真を使ったほうが早いじゃないですか。『渋谷の街』であることを認識させればいいんだから。車やメカも、描くのがキツいなァ~と思ったら、写真を撮って合成しちゃえばいいじゃない。モノクロ一色だと違和感あるけど、カラー漫画ならバッチリです」とのこと。
――長くなりましたが、以上9点、いかがだったでしょうか? 最後にテリーヌ先生はこう言います。「要するに、『そう見えればいい』んです。正確に描く必要なんてない。そう見えればいい。そう認識させればいい。誰に何を言われようと、私はそう思ってる」と。漫画家を目指している人は絶対に参考にしないでくださいね。日本漫画界のレベルが下がる恐れがありますので。
(文=長州ちなみ / イラスト・漫画・取材協力=テリーヌ富士子)
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これ→【禁断マンガ道場】漫画やイラストで悩みがあったらテリーヌ富士子先生に相談しよう!
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