【公開直前☆最新シネマ批評】
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップするのは4月12日公開のドキュメンタリー『世界の果ての通学路』です。みなさんは小学生のとき、通学時間はどれくらいでしたか? 家から3分って人もいれば、電車で1時間という人もいるでしょう。山超えて通学していたなんて強者もいるかも!
この映画に登場する小学生たちも長い時間かけて通学しています。みんな秘境と呼ばれるような山の奥地から通っているのです。スクールバスなんてありゃしませんよ。彼らの通学はまさに冒険そのもの! そんな子供たちの姿を追いかけたドキュメンタリーです。
【物語】
・ケニア
サムブル族のジャクソンは妹のサロメを連れて学校に通っています。登校日の前日は、父からの注意に耳を傾けます。「象が目の前に現れたら、一目散に逃げろ!」通学は片道15km、2時間かかります。広大な大自然の通学路は野生動物がたくさんおり、もちろん象も現れて……。
・アルゼンチン
羊飼いの息子カルロスはアンデス山脈の奥地から妹ミカイラと馬に乗って登校しています。通学は片道18km、1時間30分かかります。愛馬キベリトに乗って大平原を走る兄妹。でも石ころがいっぱいの道は平坦ではなく、決して楽ではありません。
・モロッコ
アトラス山脈の辺境の村から登校するベルベラ人のザビラは、家族で初めて学校に行く女の子です。通学は片道22km、4時間もかかります。お友だち3人と夜明けとともに家を出て、学校を目指します。
・インド
ベンガル湾沿いの漁村で生活するサミュエルは、足に障害があり歩行不能なので、ふたりの弟がサミュエルを車椅子に乗せて学校まで送っています。片道4km、1時間15分の通学路は川があったりしてトラブル続出、危険もいっぱいです。
【子供たちの心を突き動かすもの】
勉強するために学校へ行く。そんなシンプルな行為がこれほど大変なこととは! それも小学生たちが、ただ学校へ行くだけのためにインディ・ジョーンズ級の大冒険をしているのです。自分だったら学校へたどり着く前に疲れて倒れちゃいそうですよ。通学途中に象に追いかけられるんですよ! オンボロ車椅子が川にはまって身動きとれなくなるんですよ! 「逃げて逃げて」と思ったり「え~、どうするの? これ!」とヒヤヒヤキドキの連続です。
それでも彼らは「もういやだ」なんて愚痴をこぼすことはありません。けっこう度胸が据わっていて淡々としているようにも見えます。その強い気持ちはどこから来るのだろうと思ったら、彼らには将来の夢があるのです。パイロットになりたい、獣医になりたい……。
でも、その目標のためには学ぶことが絶対に必要。学校に行かなければ得られないものがあるのです。待っていては誰も助けてくれない「自分の足で将来を掴むんだ!」という強い意志が、彼らの通学に込められていて、なんかチンタラ仕事している自分を恥じましたよ。
【プリッソン監督と子供たちの運命の出逢い】
プリッソン監督が野生動物の映画のロケハンをしているとき、マサイ族の子供が通学のために通りかかったのがこの映画のきっかけだったそうです。
「呼び止めたら、彼らは夜明け前に家を出て、丘や湖を超えて、2時間も走って通学していると話してくれました。石版やペンを見せてくれたあと“遅刻しちゃうから”とまた走り去っていったのです。そのとき命の危険を冒してでも勉強をする子供たちの映画を作ろうと思ったのです」
教育機関に協力してもらい、通学に苦労している生徒を教えてもらった監督は60のケースのなかから、今回の映画に登場する4人をピックアップしました。
「通学に困難を極めている子供たちの中でも、学問が将来を切り開くと信じ、頑張っている子を選びました。中には給食を食べるだけのために登校しているパターンもあるのです」
なるほど。事情はいろいろですね。そして監督は、映画を撮り終えた後も、子供たちとの交流を続けています。象に追われて通学していたジャクソンの場合、ケニアに武装ギャングが多発し、誘拐の危険もあったので、監督が安全によりよい教育が受けられるように兄妹を転校させたそうです。
オンボロ車椅子で通学していたサミュエルには新しい車椅子をプレゼント。カルロスやザビラにも学習面のサポートを強化したとか。未来ある子供の映画を撮影し、それだけでなくアフターフォローもきちんとできるプリッソン監督、すごい、大きな人間だなあと尊敬!
【子供たちの未来は暗くない!】
この映画に登場する子供たちの親は学校へ通うことができない世代でした。そういう時代であり、そういう地域に生まれ育ってしまったからなのです。それでも「お前も学校なんか行かず、早く嫁に行って働け」とは言わず、ちゃんと学ぶ機会を与えようとしているところが素敵です。時代は確実に変わっている、前へ進んでいるのです。こうやって学ぼうとする子供が世界中に増えていけば、よりよい世界へと変わっていくのではないかと。プリッソン監督も語っています。
「荒野の片隅や辺境の地でも、もちろん都市部でも、子供たちの潜在能力が育まれるように大人はサポートすべきなのです。子供たちは好奇心旺盛で、知識を吸収したいと願っています。15年後が楽しみです。彼らがどんな風に人間的に知的に成長しているのかと」
子供たちの未来は暗くない、むしろ明るいかも! 楽観的かもしれないけど、そんな思いを抱かせてくれる夢と希望のドキュメンタリーです。
執筆=斎藤 香(c) Pouch
『世界の果ての通学路』
2014年4月12日よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
監督: パスカル・プリッソン
(C)2013 – Winds – Ymagis – Herodiade
コメントをどうぞ